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デビュー43年、「長谷川きよし」が若者に受ける理由 ボーダーレスの歌手20枚目のアルバム

2012/10/14

帽子にサングラス、アコースティック・ギターを達者なテクニックでかき鳴らしつつ、やや高めの美声で味わい豊かに歌い上げる――。ジャンルを超えて活躍するシンガー、長谷川きよし(1949年東京生まれ)が近ごろテレビに出ると、「今、すごい歌手が映っているぞ」「だれ、この人?」「もっと聴きたいね」などと、若い世代が放映中からツイッターなどのチャットで「打ちのめされぶり」を語り合う。1969年のデビュー・シングル、「別れのサンバ」が大ヒットした時点でまだ、この世に生を受けていない人たちが63歳の長谷川の音楽に熱狂する。

■「1人でワールドミュージック」の広がり

なぜ今、改めて脚光を浴びたのか? 答えは通算20枚目のオリジナル・アルバム「人生という名の旅」(EMIミュージック・ジャパンTOCT-29004=10月14日発売)にも隠されている。米映画「オズの魔法使い」(1939年)の挿入歌「Over the rainbow(虹の彼方に)」の新アレンジに始まり、福島出身の女性シンガーソングライター長谷川孝水の詞に曲をつけた話題作「夜はやさし」、ドイツでの「別れのサンバ」、フランスでの「灰色の瞳」、英国での「愛の讃歌」「歩きつづけて」(「別れのサンバ」のB面)と往年のヒット曲の海外ライブ録音を交え、フレンチ・ポップスの長老アンリ・サルヴァドールが83歳で発表した「人生という名の旅」で終わる12曲の構成だ。

サングラスとギター、帽子がトレードマーク

長谷川の「1人の聴き手として、色々な音楽に触れたい」「基本はポピュラー歌いだから、時代と離れてはいけない」「僕の曲を良いと思ってくれる若いミュージシャンと一緒に演奏したい」といった気持ちが、アルバムの隅々までこもる。国籍や言語、作曲スタイルの壁を超え、「長谷川きよし」という1本のアンテナでとらえたワールドミュージックの様相を呈す。今までかかわりを持たなかった若年層であっても、どこかにチューニングの「つぼ」が見つかるような仕掛けが長年の蓄積とともに、さりげなく備わっているのだ。

ボーダーレスの原点は、少年時代。2歳で視力を失い、東京教育大学付属盲学校(現在の筑波大学付属視覚特別支援学校)で学ぶうち音楽への関心を強めた。「中学生くらいではもう、『歌しかない』と心に決めていた」

最初に買った3枚のシングル盤の取り合わせからして、面白い。アイ・ジョージの「ラ・マラゲーニャ」とコニー・フランシスの「テネシー・ワルツ」、そしてヤッシャ・ハイフェッツ(バイオリン)が独奏した「ツィゴイネルワイゼン」。「いま振り返っても、大したセンスの子どもだったと思います」と、長谷川は笑う。石原裕次郎やフランク永井から受けた影響も大きい。とりわけ「スタジオ録音でも、晩年に身体を悪くしてからでもなく、若いころのライブで歌う裕次郎さんの声の良さ」は強く印象に残り、「現在もネット・オークションで必死に探している」。

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