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石井茂 ソニー銀行社長

石井茂 ソニー銀行社長

山一証券の経営破綻後、ネット専業のソニー銀行を設立し、10年以上にわたってトップを務めている石井茂。金融の激動期を生き抜いてきた胆力を感じさせる人ではあるが、物腰は柔らかでひょうひょうとしている。小説や戯曲、評論から古典まで、大の本好きという石井は、多くの本の影響を受けてきた。起伏に富んだ小説のような人生を支えてきた本の一部を紹介しよう。

三島作品に出合い読書にのめり込む

石井が読書にのめり込むきっかけとなったのは、中学生のときに読んだ三島由紀夫の作品。とりわけ三島の自伝的な小説とされる『仮面の告白』(新潮文庫)に刺激を受ける。

「人生は舞台のようなものであるとは誰しもいう。しかし私のように、少年期のおわりごろから、人生というものは舞台だという意識にとらわれつづけた人間が数多くいるとは思われない。それはすでに一つの確たる意識であったが、いかにも素朴な・経験の浅さとそれがまざり合っていたので、私は心のどこかで私のようにして人は人生へ出発するものではないという疑惑を抱きながらも、心の七割方(がた)では、誰しもこのように人生をはじめるものだと思い込んでいることができた。私は楽天的に、とにかく演技をやり了(おお)せれば幕が閉まるものだと信じていた。私の早死の仮説がこれに与(あずか)った。しかし後になって、この楽天主義は、というよりは夢想は、手きびしい報復をこうむるにいたった」

現実と虚構の間をさまよう自分の姿を自覚したうえで、計算し尽くした作品を描く三島に強くひかれた石井。以来、小説と戯曲は「現実から離れ、別世界に入り込む道具」となった。

石井にインタビューをしていると、どろどろとした現実に正面からぶつかる一方で、どこかで現実を突き放している姿勢がうかがえる。三島が『仮面の告白』や『金閣寺』(新潮文庫)で描いたアウトサイダーの精神が潜んでいるのだろうか。心のどこかで企業経営も一つの舞台にすぎないと割り切っているからこそ、「物事の本質を見極め、果敢に決断する」経営スタイルを貫けるのかもしれない。

高校時代に病を克服

愛読書の一部

愛読書の一部

高校1年の冬、腎炎で入院したときに熱中した司馬遼太郎の『竜馬がゆく』(文春文庫)は読みやすい本だったという。突き抜けた行動力と構想力を持つ坂本竜馬の物語は、石井に病を克服して高校生活に戻る勇気を与えた。

司馬はあとがきでこう書いている。「竜馬のおもしろさは、そのゆたかな計画性にあるといえるだろう。幕末に登場する志士たちのほとんどは倒幕後の政体を、鮮明な像としてはもっていない。竜馬のみが鮮明であった。そういう頭脳らしい。国家のことだけでなく、自分一代についても鮮明すぎるほどの像をもっている。海運と貿易をおこし、五大州を舞台に仕事をするということである。このふたつの映像を自分において統一していた。倒幕回天の運動と海運、海軍の実務の習得というふたつの方向を、まったく矛盾させあうことなく、一つの掌(たなごころ)のなかでナワのようにないあげて行った。竜馬の奇妙さはそういうところにあるであろう」

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