バーン=ジョーンズ展迫真性と装飾性が融合した世界を創造

2012/7/25

金属のパイプで構成された現代アートのオブジェのような大蛇と格闘するペルセウス。古代ギリシャの英雄の戦いをかたわらで見守っている後ろ姿の裸婦は、何を暗示しているのだろうか……。

「果たされた運命:大海蛇を退治するペルセウス」と題されたこの絵画の作者はエドワード・バーン=ジョーンズ(1833~98年)。19世紀の英国美術界で大きなうねりを作ったラファエル前派のロセッティを師とし、神話などを題材に迫真性と装飾性を併せ持つ独自の作風を展開した画家だ。展示されているのは、東京・丸の内の三菱一号館美術館で開催中の「バーン=ジョーンズ展」。会場で作品の数々を見ていると、普通に西洋絵画に接する時とは異なる、親しみに近い感情を覚える。

バーン=ジョーンズが英国で画家として活動を始めたのは1850年代半ば。フランスでモネが絵の具の跡をあらわにした斬新な作風を世に問うた第1回印象派展よりも20年ほど前である。バーン=ジョーンズはその後も、フランスの新しい動きとは無縁に、物語性豊かな魅力的な画風を展開する。現代の技術でトンネルが掘れるようになったドーバー海峡程度の距離でも、2つの国の間にある海の存在は大きかったのだろう。英国同様島国である日本文化の独自性とも重なるイメージを持つ。

もっとも画題はギリシャ神話や西欧の説話に取ることが多く、大陸の伝統の上に創造の花を咲かせているのは明らかだ。実はバーン=ジョーンズは生涯に4度もイタリアを訪れている。古代の遺跡やルネサンス美術に満ちたイタリアは、ほかの幾多の西欧の画家の例と同じく心の故郷であり、新たな創作の源泉となったようだ。

三菱一号館美術館の加藤明子学芸員によると、「バーン=ジョーンズはバチカンのシスティーナ礼拝堂にあるミケランジェロの壁画や天井画に感嘆し、床に寝そべってオペラグラスで見ほれていた」という。イタリア美術の模写も多く、ミケランジェロが表現したような筋骨隆々の男性の裸体を描いた「運命の車輪」などの作品も残した。画家の意識が、美術大国となりつつあったフランスを飛び越えていたのが興味深い。空間というよりも時間を飛び越えていたと見るべきだろう。

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