東京・中野といえば、秋葉原と並んでマンガやアニメ、ゲーム、フィギュア、特撮、鉄道など「オタクの街」としても知られているが、JR中野駅周辺の再開発を機に「街の顔」が急ピッチで変貌(へんぼう)しつつあるのをご存じだろうか。
中野は決してサブカルだけではない――。
今回はそんな中野の開発プロジェクトと街の変身ぶりについて紹介しよう。
早稲田、明治など3大学が進出、キリン本社も
数年で中野の姿はガラリと変わる。これは大げさな表現ではない。
警察大学校が移転した広大な跡地(区所有地なども含む約18ヘクタール)に来年から再来年にかけて、早稲田大学、明治大学、帝京平成大学の3大学が相次いで進出。キリンホールディングスや栗田工業の本社も1年以内に移転してくる。学生や会社員を合わせて、ざっと2万人が新たに中野に集まる計算だ。
7月1日には駅北口の中野通りをまたぐ「東西連絡路」なども完成。駅の関連施設は大幅に便利になる。ブロードウェイやサンモールなど商店街の活性化プロジェクトも進んでおり、コンサート会場として知られる「中野サンプラザ」の再開発構想も浮上している。街のイメージはもちろん、人の流れも大きく変わる見通しだ(図1)。
なぜこれほどの大規模再開発が可能になったのだろうか?
江戸時代は犬屋敷、戦前はスパイ学校……
これには意外な歴史が関係している。
実は戦前、中野駅北口の西側一帯は陸軍電信隊(写真2)、後にスパイ養成所として知られる陸軍中野学校が置かれた特別な場所だったのだ。その土地は戦後、警察庁の警察大学校などとして使用されていた。そんな特殊事情があったため、結果として立地のよい広大な遊休地が残ったままになり、大規模プロジェクトが実現できたというわけ。
もっとさかのぼれば、この地には江戸時代、「生類憐みの令」で知られる徳川5代将軍綱吉が野犬保養施設である「犬屋敷」(写真3)を設営していた。100ヘクタールの広大な敷地に、最盛期には約10万頭の野犬を収容していたらしい。「犬屋敷」は別名「お囲い御用屋敷」とも呼ばれ、旧町名の囲町(かこいちょう)はこれに由来する。
つまり、中野駅北側は「犬屋敷」→「陸軍中野学校」→「警察大学校」→「サンプラザ+サブカル」という変遷をたどってきたユニークな土地なのだ。