アート&レビュー

名優、高倉健さんをしのぶ

バカですね… 思いやりと心意気 俳優 高倉健

2012/6/15

日本映画を代表する俳優、高倉健さんが亡くなりました。主演した映画「あなたへ」が公開された2012年、日経電子版に連載した「高倉健のダイレクトメッセージ」では誠実な人柄が伝わり、読者からも多くの反響が寄せられました。当時の連載を再掲し、高倉健さんの優しさ、芯の強さを改めて伝えます。
下町にある仕事場を訪ねるのが楽しみだった(撮影:今津勝幸)

私は、下町にあるその方の仕事場を訪ねるのが楽しみでした。

三井彰さん。

お父様の代を引き継ぎ、彫金や象嵌(ぞうがん)の仕事をされていました。

気に入った腕時計の裏に自分の名前や贈りたい方の名前を彫っていただくために、ご紹介を受け、時々仕事場にお邪魔するようになりました。

ある時、山下耕作監督に贈りたいディレクターズチェアの木枠に名前を彫っていただこうと、相談にあがりました。監督の話をしていた私に、三井さんは「ちょっと待って下さい」と立ち上がり、背にしていた襖(ふすま)を開けました。初めて見るそこには、中国の書や仏像に関する本がぎっしり並んでいました。そこから迷わず一冊取り出し「顔真卿(がんしんけい=唐代の書家)がいいかと思います。この人の字は、とても男っぽい。この字体で彫りましょう」とおっしゃいました。

いつも穏やかに迎えてくださる三井さんの、すぐれた技術の奥に秘められた弛(たゆ)まぬ努力に感動を覚えました。

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