働き方・学び方

ダイレクトメッセージ

「人として」の修行の場、農業 パティシエ 鎧塚俊彦

2012/6/12

2011年11月、神奈川県小田原市の石垣山の山頂に「一夜城 Yoroizuka Farm(ヨロイヅカ・ファーム)」をオープンした。

一夜城 Yoroizuka Farm (神奈川県小田原市)

約4千坪(約13,200平方メートル、うち1千坪は小田原市が管理する駐車場)の敷地内に2千坪の畑を擁し、レストランとコンディトライ(菓子とパンの店)、この畑と近辺で採れた新鮮な果物や野菜を販売するマルシェ(市場)を併設している。マルシェは約30軒の地元農家と共同で運営。農園はこれら地元農家の方々とともに、すべて自分たちの手で木を伐採して開墾し、作り上げた。

■素材から「美味しい」を自分の手で

数か所の候補地があった中から2010年春、石垣山頂に決めた。その年の秋に地域の農家の皆様を集め、説明会を開かせていただいた。参加された皆さんから、このような質問がきた。

「鎧塚さん、本気でこの山のてっぺんで農業をやりつつ、スイーツを作るつもりですか?」

私は即座にお答えした。

「本気なんてものではありません。命賭けで必ず、やり遂げるつもりです。ぜひ皆さんのご協力を仰ぎたい」

一番年輩のリーダーの方が、大声で応えて下さった。

「そこまで言うのなら、失敗させる訳にはいかねえ。必ず成功させてやる」

様々なフルーツを自ら育て、それらを使ったスイーツを作る事は長年の夢だった。おそらく物づくりに携わる人なら「素材から自分の手で愛情込めて作りたい」と考えるのは、自然の流れであろう。理由はそれだけでは無かった。地方の産地や農家を訪ねるたびに、「日本の農業はこのままでよいのか?」との疑問と不安が心をよぎっていた。

経済だけに頼った日本の高度成長は過ぎ去り、産業の生命線とも言えた輸出も頭打ちだ。こうした中、食料自給率の低さからもわかるように、日本の食糧の多くは相変わらず輸入に頼っている。そのくせ日本全国には耕作放棄地が溢れ、第一次産業に従事する若者は減っていく一方である。少子化の影響だから仕方ないのか? いやいや、そんな事はない。都会では「就職難で仕事がない」とメディアが盛んに訴える。矛盾だらけである。

エネルギー問題などには、賛否両論があるだろう。しかし、農業の活性化なくして日本の未来はないという事に、異論はないはずだ。議論があるとすれば、活性化に向けての方法論だけであろう。だが、口先だけでほざいてみても仕方がない。それでは口先だけで好き放題の論評、批判を繰り返す一部マスコミや、目の前の快楽に心を奪われ、自らのこれからの人生の核となるものを見つけられない多くの若者と何ら変わらない。やはり自分でまずやってみて、のたうちまわりながらも叫ぶしかない。

国を憂うるように偉そうな事を長々と書いてきたが、実は、それは2次的な理由かも知れない。今まで、無我夢中に菓子職人として生きてきた。自分で思い描いていた以上に急成長してしまい、多くのスタッフを抱える規模に育った事への感謝の気持ちと責任感、重圧。その中で苦しみ、導きだしてきた道が農業なのかもしれない。

これまでは「美味しい」にこだわり、日本を含め5カ国で学んできた製菓技術と、自分にしか出来ないつくりたてのスイーツを提供する「ライヴ感」を信条として、Toshi Yoroizukaのスタイルを確立してきたつもりである。スタイルを発表する場として、「カウンターデザート」のサービスを恵比寿の本店で始め、東京ミッドタウンで進化させた。今でも時間の許す限りカウンターに立ち、お客様の目の前でデザートを作っている。

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