「作品そのものを見てくれる」

公式上映後の井浦新、若松孝二、満島真之介(左から)

65年に「壁の中の秘事」がベルリン映画祭のコンペに出品されたときは、マスコミから「国辱」と批判された。「よくぞ言ってくれた。国辱と言われたのはブニュエルとぼくだけ」と笑う。

以来半世紀近く、ベルリンもカンヌもヨーロッパの映画祭はずっと若松に敬意を払っている。「左とか右とかでなく、作品そのものを見てくれる」と若松。日本の文化状況が目先の風向きばかりを追って、定見がないのとはまるで違う。

「親とか先輩が語り続けてこなかった。表現者が何もやってこなかった。作る側が自己規制してどうなる」と若松は憤る。そんな半世紀にあってコンスタントに映画を作り続けてきた。「ぼくの能力って映画を撮ることしかないからね。フィルムで戦っているよ」

日本経済の低迷で独立系映画の製作事情が厳しい中、今年だけでも「海燕ホテル・ブルー」「11.25自決の日」「千年の愉楽」の3本を公開する。いずれも自主製作、自主配給。独立系成人映画を始めたころからやってきた、若松にとっては当たり前の方法だが、いま若い映画作家たちがこれに学んでいる。

76歳。「体はメタメタ。先が短くなってきたから、あせっている部分はあるが、もうちょっと撮りたい。あの世に行ってもフィルムは残るからね」

クローネンバーグの情報社会批判

デヴィッド・クローネンバーグ監督「コズモポリス」

25日のコンペにはカナダのデヴィッド・クローネンバーグ監督「コズモポリス」が登場した。ニューヨークで資産運用会社を経営し、巨万の富を蓄えた28歳の若者エリック・パッカー(ロバート・パティンソン)の1日の物語である。

物語の前半はほとんど大きな白いリムジンの中で展開する。近未来的なメタリックな車内に、情報機器の青白い光がもれる。ここですべての情報を収集し、外国為替や株式の取引を指示するのだ。この現代資本主義社会を象徴するような空間で、エリックは顧客と面会し、美術品の購入を相談し、医師の診察も受ける。排せつもするし、性交もする。

巨大な資産を最先端の情報機器を使って運用しながら、原始的なセックスの快感をむさぼる。エリックの生の手触りはきわめていびつな形で現れる。リムジンの外では暴動が起きているというのに……。

原作は「アンダーワールド」で知られる米国の作家ドン・デリーロの同名小説。高度に情報化した資本主義社会への黙示録とでもいうべき内容だ。ほとんど動きのない車内を舞台にしながら、世界の終わりを暗示するという難題に、クローネンバーグは果敢に取り組んでいる。

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ハネケに高評価、賛否割れるカラックス
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