アート&レビュー

名優、高倉健さんをしのぶ

映画俳優、デコボコの道 俳優 高倉健

2012/5/18

大学を出たとき、何をしたいかは分からなくても、何をしたくないかは分かっていました。

(ベルトコンベヤーのような人生だけは、送りたくない!)

デパートや外国の航空会社という働き口はあったのですが、やったらやっただけ上がる、サボったらサボっただけ落ちるという真剣勝負の道を望んだ私は、大学の恩師の紹介を受け、映画スターのカバン持ちから始めようと、京橋の喫茶店「メトロ」に面接に行ったのです。その喫茶店にたまたま居合わせた東映の元専務、マキノ光雄氏に「君は、映画俳優になる気はないか?」と声をかけられて入った道です。

「四十七人の刺客」では、毎日ちょんまげ姿に本身の入った二本差しを腰につけて伊豆の海岸を歩き回り、武士の気持ちをつくった((C)東宝)

養成所では「目つきが悪い」と言われ、バレエを踊れば笑われ、日舞は着物の裾が割れたと叱られる。初めてドーランを塗ったときの屈辱的な涙の味は、今も覚えています。

ここから始まった俳優という道…。

高邁(こうまい)な演技論などとは無縁だった私は、体を張ることで挑むしかありませんでした。

1966年の「網走番外地・大雪原の対決」では、疾走する馬に雪の中を引きずり回され傷だらけになりました。78年の「冬の華」では、15年の刑期を終えて出所した主人公が、初めての朝食のパンに異常なほどたっぷりとジャムを塗りつけるシーンを、元受刑者の方のお話をうかがって演じました。94年の「四十七人の刺客」では、毎日ちょんまげ姿に本身の入った二本差しを腰につけて伊豆の海岸を歩き回り、武士の気持ちをつくりました。

振り返れば、滑稽ともいわれそうなデコボコの道です。

人生には、そんなにいいことはめぐってきません。がんばれば必ず報われるかといえば、それもウソでしょう。けれども、ほんのたまにめぐってくるいいことを見逃さないために、普段から神経を張りつめて、がんばっている必要があったのです。

■俳優の義務とは…

ほんのたまにめぐってくるいいこと…。それを私は「感動」と呼びます。

感動ほど贅沢(ぜいたく)なものはなく、感動のない人生ほど淋しいものはないと信じています。

観る人を感動させる最高の演技というのは、何回もできるものではありません。全身全霊がパッとほとばしる瞬間は、たった一度きりといっても過言ではないでしょう。その一度の演技のために、多くのものを捨てて心身を整え、出来得る準備はすべて整えておく。

映画という2時間前後の世界の中で、一生忘れられないような台詞やシーンに出逢っていただくために、俳優はこの義務を負っていかなければならないのでしょう。

大好きな作家の一人、山本周五郎は自分の作品の根底に流すテーマとして、イギリスの詩人「ロバート・ブラウニング」のこんな言葉を大切にしたといいます。

「人間の真価は、その人が死んだとき、なにを為したかではなく、彼が生きていたとき、なにを為そうとしたかで決まる」

読者からのコメント
ひろし40代男性 熊本県
「幸せの黄色いハンカチ」を映画館で見て以来健さんのファンです。当時私は中学1年生でした。健さんの表情、手、話し方、服装に何となく父との共通点を感じたのですが、健さんと父は同年生まれでした。その父は中2の暮れに他界しました。商売がうまくいかなくなり、自らの命を絶ったのです。それ以来、健さんを映画で見るたびに、父の面影を感じています。最近は健さんの古い映画をDVDで見ながら父の若かりし頃を想像し、懐かしく温かい気持ちに浸っています。昨年待ちに待った最新作が製作されると知り、嬉しさでいっぱいになりました。そして、このメッセージの存在を知り、読みました。涙が出ました。健さん、いつも元気を下さりありがとうございます。
いずみ 60代男性 宮城県
「ほんのたまにめぐってくるいいこと…。それを私は『感動』と呼びます」。珠玉のこの言葉に、私は共感を覚えます。50年以上の俳優という役柄の中で、人生の機微を演じてきた高倉健さんならではの言葉と思います。人生やあふれる思いを映画やエッセー集で拝見してまいりましたが、この1行の言葉で改めてその思いを深くしました。まだまだ頑張って欲しいと思います。新たなエッセー集も、またいつかと心待ちにしております。高倉健さんの素晴らしい人間性に「感動」です。
tmori 60代男性 神奈川県
「ほんのたまにめぐってくるいいことを見逃さないために、普段から神経を張りつめて、がんばっている必要があったのです」。 やはり名優という人は、心構えが違うのでしょうか。日々の忙しさにかまけて、流されていく自分を思うと、名を残す人はやはり違っているのだなとつくづく感じさせられる、高倉健さんの文章でした。良い文章を読ませていたき、感謝です。
yahata 50代男性 静岡県
私は高倉さんのファンです。このダイレクトメッセージを読んで、やはり、私は高倉さんが好きだと思いました。
太助 60代男性 千葉県
好きだなぁ、健さん。学生時代から、網走番外地を放映する映画館をめぐり歩き、弱気な自分の丸くなった背を伸ばしてもらった。いわゆる「名作」も好きだけれど、健さん自身を見てるのが好きだ。男として、男になりたい、という憧れかもしれない。潔さ。日本的なもの。健さんが大学卒だったなんて初めて知りました。まだまだ「枯れた演技者」として、夢を見させてください。
眠りの小五郎 50代男性 千葉県
「人生には、そんなにいいことはめぐってきません。がんばれば必ず報われるかといえば、それもウソでしょう」。高倉様のおっしゃる通りだと思います。何冊もの本を買い、不自由な右手でページをめくり、PCとにらめっこして、夢にまで見て、やっと書いたプログラム。それを同僚がコピーして我が物顔で使い回し、上司に評価される。会社や仕事はそんなものだ・・・。それでも、どんなに難しい仕事にも逃げずに取り組んで来ました。クライアントに120%応えたい、そのために普段から準備を怠りません。それがプロフェッショナルだと思うからです。自分の中で悶々とするものを堅く閉ざしてきました。しかし、高倉様の文を読んで嬉しかったです。結果はどうあろうと、どう生きたか、どう生きようとしたか。そんな不器用な生き方を高倉様は理解してくださる。この人生でよかったと思えます。
畑の虫 70代女性 福岡県
おそらく私は高倉さんの出身地の近くの者です。何かと身近な感じがしていましたが、今回の発言は大切なメッセージだと感じます。子供がドイツで中堅の立場で働いています。時に辛いと泣き言を言ってきますが今回の「頑張れば必ず報われるはない……神経を張りつめて……」と言う言葉を届けてやりたい気持ちです。大変感謝します。
劇団ミロ 40代男性 石川県
ブラック・レイン、鉄道員(ぽっぽや)の健さんの演技、そして映画撮影に臨まれるご姿勢に関する数々のエピソードに感銘を受け、尊敬しています。名優、笠さん、大滝さんのエピソードも心に染みました。俳優の責任についてのお話も、しっかり受け取らせていただきました。(手帳にも書きました。)8月公開の「あなたへ」、楽しみにして、また進みます。自身の為すべきことを為すために!
冬馬 40代男性 新潟県
「男に惚れる」。こんなことを言えば、最近はゲイだ、ホモセクシャルだと言われる昨今、私が長らく惚れ続けてきたのが映画俳優「高倉健」です。健さんは、子供の頃からスクリーンに映し出される、ボクの憧れの男でした。 若い頃の渡世人役(網走番外地シリーズ)よりも、男の弱さや哀しさを内に秘める役(幸せの黄色いハンカチ以降)を演じる健さんに最も心を惹かれます。健さん主演の日本映画が公開されるたびに、映画館に足を運んできました。あるいは、ふと懐かしい気分に浸りたいとき、DVDで健さん映画を観ています。そこにはいつでも男が惚れる男、高倉健がいるからです。
唐辛子牡丹 60代男性 千葉県
1987~1991年に香港に駐在していた時だとおもいます。香港の昔の空港、啓徳空港(カイタック空港)で、香港に降り立ったばかりの「黒いサングラスを掛け、上下とも黒いスーツの憧れの高倉健さん」をこの目でみることが出来ました。その時、これぞ「ゴルゴ13」だと思わせる風格をお持ちでした。いつまでも憧れの大スターでいてください。"
mugitoro 50代女性 東京都
「冬の華」からの健さんの大ファンです。健さんの書かれたコラムにコメントを寄せることができる、ネットの世界に感謝しています。「あなたへ」ももちろん楽しみですが、どうか健さん、1本でも多くこれからも映画に出演して、私たちファンを夢中にさせてください。クリント・イーストウッド監督に1本撮ってもらいたい、というのが私の夢です。
ひろみ 50代女性 海外
不器用でぼくとつ、口数も少なく人に媚びることもない、そして心温かな高倉健さんは私の理想の日本人男性です。今度日本に行ったら6年ぶりの新作映画「あなたへ」を是非観に行きたいと思います。
jms 60代女性 東京都
だれもが認めるスクリーン上の健さんの、観客の心をつかんで離さない魅力、でもその自然ににじみ出てくる魅力だけで何十年も俳優をなさってきたのではない、「ほんのたまにめぐってくるいいことを見逃さないために、普段から神経を張り詰めている必要があった」とおっしゃる切ないほどのご自分のお仕事に対する真摯なお気持ちを今回の文章で知り、感動しました。「映画俳優とは何か」の答はもう出ているかもしれませんね。健さんにご健康とご幸福を!
福島庸一 60代男性 兵庫県
心待ちにしていた第3回目の「第三金曜日」でした。「健さん」の想いを綴った本であり、また、雑誌、新聞に発言された「想い」に、何度も触れてきたのに、こうして「高倉健のダイレクトメッセージ」をワクワク、ドキドキしながら拝見してます。 今回、文中にあった「健さん」の心に残る「セリフ」にこだわられて居られる事、大事にされてられる事、凄いです。それは今まで出演された作品達で何シーンも想い起されます。「ホタル」の船の上の「田中裕子」さんとのシーンで「二人で一つの命じゃろうが……ちがうんかァ」。「ちがうんかァ」の台詞は「健さん」のアドリブだと思うし、「健さん」の想いの溢れてこぼれた台詞と確信してます。映画「あなたへ」でもきっと「高倉健」の想いに巡り合えると思ってます。
samu 50代男性 茨城県
「待ってました!健さん」の掛け声を映画館で聞いて早、40年。下宿のあった新小岩の映画館でした。暇だから、昼寝をしながらいた映画館。洋画が好きで、日比谷で映画三昧の学生時代でした。なぜ?映画に向かい声をかける?か不思議でした。 実社会にでて、高倉健さんの多くの作品を見て、作品に向かう姿に、毎回、「頑張れ!」との声を掛けていただいているような気になります。この頃、映画館で掛け声を発した方の心が少し判る気がしております。「待ってました!健さん」と。
太平洋の渡り鳥 60代男性 海外
「気迫」そして「人間の価値は何をしようとしたかで決まる」。いい言葉ですね。大滝秀治、笠智衆、山本周五郎、皆さん私も好きな先人たちです。私が暮らすカナダのビクトリアにも私同様、健さんが好きなカナダ人がいます。健さんの魅力はユニバーサルのようです。
水野宏 70代男性 三重県
心の底から想う真の日本男士。尊敬します。
高橋正則 50代男性 神奈川県
感動という言葉を普段何気なく使ってしまいますが、高倉さんのおっしゃる通り「ほんのたまにめぐってくるいいもの…」と想うと、気持が全然違ってきます。とてもいいことを教えていただきました。ちょっと感動です。

アート&レビュー 新着記事

ALL CHANNEL