企業にとって現代アートとは 当事者が語る3つの価値

2012/5/9

アート

美術館や展覧会に加え、街中や観光地など様々な場面で目にするようになった現代アート。企業も積極的に活用を始めている。アーティストの創造力や発想力は、企業活動とどのように結びついているのだろうか――。日本経済新聞社は3人の講師を招いて4月中旬、現代アートと企業とのかかわりについて解説する電子版セミナーを東京本社2階スペースニオ(東京・大手町)で開いた。当日の模様を再構成した。(生活情報部 柳下朋子)
NIKKEIアート・プロジェクト セミナー「現代アートAtoZ」の会場(4月16日、東京・大手町)

「いま、現代アートが求められる3つの理由」をテーマに、現代アートの入門セミナー「現代アートAtoZ」の第2弾(協力=アートフェア東京実行委員会、フィアット グループ オートモービルズ ジャパン)として開催した。講師は、特定非営利活動法人(NPO法人)アーツイニシアティヴトウキョウ(AIT=エイト)理事長の塩見有子さん、アートフェア東京エグゼクティブ・ディレクターの金島隆弘さん、フィアット グループ オートモービルズ ジャパン マーケティング本部長のティツィアナ・アランプレセさん。様々な現場で現代アートの活用を進めている3人が、自らの体験を基に企業活動に及ぼす影響やメリットなどについて語った。

社員のアイデアを刺激する

AIT理事長の塩見有子さん

まず、AITの塩見さんが登場し、マネックス証券で2008年から取り組んでいるアートプロジェクト「ART IN THE OFFICE」について説明した。塩見さんが理事長を務めるAITは現代アートの学校の運営と、美術作家の国際交流や滞在制作を支援するアーティスト・イン・レジデンスを2つの柱に2001年から活動している。現代アートにかかわる様々な事業を展開しており、マネックス証券のプロジェクトの運営にも協力してきた。

アーティスト・イン・レジデンスで滞在したマイケル・ヨハンソンがAITルームに展示した作品「余白の恐怖」(2011年)

同プロジェクトは公募で選ばれた新進気鋭のアーティストが1年間、証券社内のプレスルームに作品を展示する。毎回、アート界だけでなくビジネス界からも審査員を迎えて作品プランを厳選し、受賞者には賞金と制作費を支給している。

なぜ、プレスルームに現代アートなのか。「プレスルームは来訪者を迎えるオフィスの顔。その部屋に前衛的なアートを飾ることで他社と違いが出せる。しかし、それだけにとどまらない」と塩見さんは説明する。それは、社員と芸術家との交流だ。

アーティストは作品をその会社内で制作することが多く、社員をモデルにしたり、対話をもとに絵が生まれたりすることもあるという。実際、そうした制作過程を経て、著書「TOKYO 0円ハウス 0円生活」が話題の坂口恭平さんの細密なペン画や、松本力さんの色鮮やかなコマ割りのドローイングなど、個性豊かな作品が壁を飾ってきた。

マネックス証券プレスルームに飾られた2008年度受賞作品:坂口 恭平「Dig-Ital City(ディグ・アイタル・シティ)」
2009年度受賞作品:松本 力「何もしないことをおそれて何もしないわけではない」

塩見さんはこのプロジェクトにかかわる中で、アーティストと社員の交流が双方にとって、よい刺激になっていると感じているという。「枠にはまらない現代アートは見る者の心を動かす力を秘めている。ビジネスシーンにおいても、アイデアを刺激する『異質な存在』として求められている」と力説する。

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