独力で「漢字辞典」作った編集者のこだわり著者・円満字二郎氏に聞く

辞書の編さんに打ち込む編集者を描いた「舟を編む」(光文社)が今年の本屋大賞に選ばれるなど話題になっています。今回紹介する「漢字ときあかし辞典」(研究社)の著者、円満字二郎さんも出版社で漢和辞典の編集者を務めていました。理想の辞書を求めて、今年3月ついに独力で辞典を作ってしまった人です。編集者のこだわりと漢字への思いが詰まった一冊について聞きました。
円満字二郎さん

円満字という名字と漢和辞典編集者という経歴を見れば、まるで天職のように思われがちだが、出版社に入社して7年ほどは国語教科書の編集を担当。漢和辞典に携わったきっかけは定年退職者が出たための異動だった。漢和辞典と約10年関わりながら「人名用漢字の戦後史」(岩波新書)など漢字を題材にした自著も出版した。自分なりの漢和辞典への思いはあったが、2008年、出版社を退職した。

「漢和辞典は人数と時間とをかけて作るもので、1人で作ろうと思っても作れるものではありません。フリーになった時点で自分なりの漢和辞典を作ることはあきらめました。しかしそれが『ときあかし辞典』のスタートでもありました。漢和辞典は一般に手に取ってもらいづらいという実感もあり、読者と漢和辞典の世界の間を埋めるためのものならば、自分の仕事の範囲で、何かできるのではないかと思ったわけです」

「編集者にとって漢和辞典とは気の多い思わせぶりな書物で、一見新しいものを作る余地があると思いやすい。部首と画数の配列は引きにくいですよね。ならば五十音順にすれば新しい漢和辞典になると考えましたが、調べてみると明治時代から五十音順のものはある。五十音順は便利だけれど、読めない字を引くにはどうすればいいのか、といった問題も立ちはだかります。実際に新しい辞典を作るのは簡単ではないことが分かってきますが、何か自分なりの色が出せるのではないかとはずっと思っていました」

漢和辞典の面白い部分だけ語る

漢字1字につき入れるべき情報量が多い漢和辞典は、読者に面白い部分がストレートに伝わりにくい。漢字に興味はあっても、漢和辞典はよく分からない、買う気にも読む気にもならないという人は多いと思い、ならば普通の漢和辞典をやめて、自分なりに面白いと思うところだけを並べて語ってしまおうと考えた。

「漢和辞典の記述はどうしても重たくなるので、ある字に関して最低知っておいてほしいことだけを並べて語る辞書を作れないかと思いました。この字はこういう部分が面白い、この字は成り立ちと絡めて読むといい、あるいは音読み訓読みと絡めて読む、意味の発展を追いかける、そういう面白い部分をつまみ食いして、ときあかしてしんぜましょう、ということです。それで面白いと思ったら、次に漢和辞典を引いて、自分なりに漢和辞典を読んでいけるようになってもらえればいい。この辞書で漢字の世界の面白さを体験してもらい、漢和辞典へのアレルギーが無くなってくれればいいなと思っています」

「漢字に興味はあるが漢和辞典には手が伸びない人たちを対象に絞ると、2000文字くらいならば大抵読める。読めるから配列は五十音順、読めた先には何かがあるということを語ろうとすると辞書の形は決まってきます。内容は全部トークなので読者にどこまで届くかは分かりませんが、自分のトークで2000文字をときあかそうというスタイルは、この辞書を実際に考え始めた2年ほど前に出来上がっていました」