「死神」に「ムカデ」… 珍名ゾロゾロ日本酒事情

2012/4/21

耳寄りな話題

「この、けものへんの漢字、カワウソって読むんじゃないですか?」。おじさんが大事そうに抱えた純米吟醸酒の瓶を見て、職場の女性が声を上げた。「獺祭」(だっさい)。今まで何気なく飲んできた銘柄だが、指摘されれば、確かにカワウソのお祭りと読める。

「そういえば最近、ヘンな日本酒の名前が多い気がする」。ネットを検索し拾い上げてみた。「熊古露里」(北海道小樽市)「スキー正宗」(新潟県上越市)「姨捨正宗」(長野県千曲市)「無風(むかで)」(岐阜県養老町)「醸し人九平次」(愛知県名古屋市)「獺祭」(山口県岩国市)ときて、なんと不吉な「死神」(島根県邑南町)まであった。

ポスト団塊の消費者狙う

昔から、これほど多く、風変わりな銘柄が存在したとも思えない。1970-80年代の地酒ブームをリードした「日本名門酒会」が本部を置く老舗の酒問屋、岡永(本社東京・中央区)の取締役企画部長。「日本酒博士」の異名をとる森晃一郎さんの話を聞いてみた。

「銘柄にも一種の流行がある。『よくもまあ』とあきれる名前には受け狙いも多く、日本酒より焼酎で先行した手法」という。ただ日本酒では何度かの衰退期を経て、品質やパッケージのデザインを一新して生まれ変わろうと、熟慮の末に付けた銘柄が多いらしい。

獺祭(だっさい)

「もともと宮中の酒造りが先行した日本酒には、銘柄がなかった。室町時代に至り奈良の僧坊酒を『南都諸白』(なんともろはく)として売り出したのが、日本酒のブランディングのはしり。15世紀の京都でようやく『柳』『梅』といった造り酒屋ごとの銘柄が広まり、江戸時代後期の灘で清酒と日蓮正宗をかけた『正宗』の第1号、『桜正宗』が誕生した」(森さん)。日本酒は味覚と直結した商品だけに、蔵元は元々、イメージにこだわる。全国ブランドの代表格、「月桂冠」(京都市)も明治時代の初めまでは「鳳麟(ほうりん)正宗」と名乗り、20世紀になって古代オリンピアをしのばせる現在の銘柄へ変更した。

日本酒消費量が1973年の第1次石油危機を境に減少へ転じた中、吟醸酒や地酒のブームを起こし、需要を下支えしたのは当時30代の団塊世代(1947-49年生まれ)だった。万事にマニアックなこだわりを発揮した彼らも、今は60代の退職世代。さすがに「斗酒なお辞せず」とは行かなくなった実態を受けたのか、全国各地の造り手も転機を迎えている。

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NYでも認められたカワウソ