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レンゴー社長 大坪清氏

レンゴー社長 大坪清氏

「企業人としてモノの見方が分かっているか、それを試す格好の本がある」。そういって大坪が最初に取り出してきたのはアダム・スミスでもジャック・ウェルチでもない、内田百●(もんがまえに月)の『第一阿房列車』(新潮文庫・2003年復刊)だった。

夏目漱石の門下でユーモア文学の流れを受け継ぐ百●の代表作の一つである。弟子とともに「用事がない旅」に出て珍道中を繰り広げる物語だ。

大坪がぜひ読んでほしいというのが、東京と大阪を往復する「特別阿房列車」の中の一節。弟子のヒマラヤ山系が、百●先生にこんな話をする。

「三人で宿屋へ泊まりましてね(中略)払いが三十円だったのです。それでみんなが十円ずつ出して、つけに添えて帳場へ持って行かせたら(中略)五円まけてくれたのです。それを女中が三人の所へ持って帰る途中で、その中を二円胡麻化しましてね。三円だけ返して来ました(中略)その三円を三人で分けたから、一人一円ずつ払い戻しがあったのです。十円出した所へ一円戻って来たから、一人分の負担は九円です」

「それがどうした」

「九円ずつ三人出したから三九、二十七円に女中が二円棒先を切ったので〆て二十九円、一円足りないじゃありませんか」

本のなかでは百●先生は「考えて見たがよく解らない」で済ませてしまうが、このからくりをどう説明するか。大坪は阿房列車のこの部分を社内の会議などで読み上げて、幹部たちに問いかけることがあるという。

「バランスシート(貸借対照表)やキャッシュフロー(お金の流れ)、損益計算書など会計の基本を理解していれば、すぐに分かる。ところがそれを混同する人が多い」と大坪。

確かに一読するとだまされそうになる。まずバランスシートで考えてみる。最初にあった30円という資産。それが宿屋側に27円(帳場に25円、女中に2円)移った。手元に残ったのが3円。27足す3で合計30円と、ちゃんと辻つまはあっている。

一方のキャッシュフローは、まず30円出て、5円戻り、再び2円出る。手元に3円だ。これも帳尻があう。要は2円というキャッシュフローの移動と、27円というバランスシートの数字を足すからおかしくなるのだ。

百●のこの文章を引きながら、大坪は最近のファイナンシャル・エンジニアリングにも警告を発する。ファンドや金融機関が様々な金融派生商品(デリバティブ)などを手掛けている。開発者らは言葉巧みに商品の斬新さを説明するが、果たしてそこにごまかしはないか――。

大坪はこの「阿房列車」シリーズを若いころから愛読してきたという。それにしても、百●の本から企業会計の原理や金融派生商品への警告を読みとる読者はそうはいないだろう。関西経済界を代表する論客だが、歯に衣(きぬ)着せぬ直言の合間に見せるユーモアもいわば「百●流」なのかと納得した。

高校、大学とバレーボール部に所属した体育会系だ。1972年のミュンヘンオリンピックで男子バレーボールチームが金メダルを取る原動力になった一人時間差攻撃。大坪によると「あれはそもそも私たちが高校時代に編み出したものだ」という。

スポーツで鍛えた勝負勘の一つなのか。小説であれ、難解な経済書であれ、書物から本質をずばりわしづかみしてしまう。そして本から得た知識、本で身につけた知恵を現実のビジネスに巧みに生かしてきた。

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