40代が注目する「パラレルキャリア」 複数の顔持ち、豊かな人生40代・惑いの10年 一歩前へ

独立し福祉活動

「座るとほら、すそにあったポケットが、ちょうどいい位置にくるでしょう」。コンサルタント会社社長の須藤シンジさん(49)は自ら開発に携わったレインコートを指した。車いすの利用者向けだが、「僕らにとってもグラウンドに座って観戦するのに便利」。説明を聞いていたアシックスの若い店長や販売員らがうなずく。

健常者と障害者が共に着用できるコートの説明をする須藤シンジさん(中央、東京都渋谷区のアシックスのオフィス)

須藤さんは本業とは別に、福祉商品の開発に携わる。福祉商品といっても、着脱しやすくて格好よく、健常者向けと同じ棚で販売される。あがった利益は、次の商品開発や他の福祉活動にあてており、今春にはNPO法人を設立する。

かつては丸井で土日返上で働き、店次長やバイヤーを務めた。だが重度の脳性マヒで生まれた次男のことも考え、時間を自分で管理したいという思いから30代半ばで独立した。40代になり、「障害の有無にかかわらず、生活を楽しみ、皆が住みやすい町づくりをめざしたい」という思いはさらに強まり、社会活動に積極的にかかわっている。

仕事のつながりの中から社会活動を広げる人もいる。博報堂企画開発部の船木成記さん(47)は17日、東京で開催される落語会で解説者として舞台に上がる。船木さんは本業以外に6、7の顔をもつ。

きっかけは30代で愛知万博の仕事にかかわったこと。環境問題の専門家らとも関係を深め、今では自分も社会起業家やNPOの支援をし、環境問題やフェアトレードなどの勉強会に忙しい。落語の勉強会には、人とのつながりへの興味もあって5年前から参加している。そんな活動が、内閣府の男女共同参画局のシンポジウムでの落語会企画という事業にも結びついた。

「こうした活動をしながら自分の人生の意義を考えたい」と船木さん。裁量労働制なのでコアタイムは集中して仕事をこなし、出勤前や夜は本業を離れて2、3の会合を掛け持ちする。「以前のように社内の飲み会には行けない」と笑う。

自らいくつもの顔を持つ立教大学社会学部の萩原なつ子教授は、40代で会社一辺倒ではない働き方をする人が出始めている背景として、「1980年代後半に地球環境問題への関心が高まり、企業の社会的責任(CSR)が問われ始めた時に若手社員だった」ことを挙げる。多様性を認めようという価値観が生まれ、同時に経済環境の激変で今の仕事や会社の危うさを目の当たりにし、自分なりの働き方が問われた世代だという。40代のこうした変化は、今後の日本人の働き方を変える原動力になるかもしれない。

▼パラレルキャリア 経営学者のピーター・ドラッカーが著書「明日を支配するもの」などで提案したこれからの生き方。長寿社会となり、一つの組織に属して同じ仕事を続けるだけでなく、もう一つ別の仕事を持ったり社会活動をしたりすることで、「新しい世界」が手に入れられるという。
日本では副業禁止の企業も多く、余力があるならもっと本業の仕事に力を入れるべきだという風潮も色濃い。だが、立教大学の萩原なつ子教授は「難しく考えず、最初は興味や関心を持ったことに一歩踏み出してみる」ことを勧める。
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