2012/3/16

名優、高倉健さんをしのぶ

絶対に負けない

そんな弱りかけた気持ちに、ビシッとムチを入れてくれたものがあります。それは、雑誌に掲載されていた一枚の写真でした。イタリアにお住まいの作家の塩野七生さんが、現地の週刊誌に載っていたと紹介している写真でした。

気仙沼の被災地のがれきの中を歩く少年の写真を「あなたへ」の台本の裏表紙に貼りつけた (写真は共同)

気仙沼の被災地のがれきの中を歩く少年は、避難所で支給されたものでしょうか?

袖丈の余るジャンパーにピンク色の長靴をはいています。両手には一本ずつ、焼酎の大型プラスチックボトルを握っています。彼は、給水所で水をもらった帰りなのです。その水を待っているのは幼い妹でしょうか?

年老いた祖父母なのでしょうか?

私の目をくぎ付けにしたのは、うつむき加減の少年のキリリと結ばれた口元でした。左足を一歩踏み出した少年は、全身で私に訴えかけてきます。

「負けない。絶対に負けない…」

私は、その少年の写真をB5版のサイズにしてもらいました。映画の台本の大きさです。「あなたへ」の台本の裏表紙にその写真を貼りつけた時、胸の奥からほとばしった熱情。クランクインは、数日後に迫っていました。

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やはり不器用だから…