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広辞苑も採録、市民権を得た「逆ギレ」の「逆」って何? 発信元・ダウンタウン松本さんの真意は…

2012/2/21

 「逆ギレ(逆切れ)」を収録する国語辞典の数が昨年、2桁に達しました。単なる若者言葉の枠を超え、今やすっかり市民権を得た様子です。そこで根本的な質問をひとつ。逆ギレの「逆」って一体何? 逆にキレること、という答えはすぐに思いつきますが、では何に対して逆なのか? かつてはダウンタウンの松本人志さんも問題提起しています。

■松ちゃんがこだわった「逆」の意味

かつてテレビ番組で「逆ギレ」の用法について取り上げた松本人志さん

 1998年3月29日に放映された日本テレビ系「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」での浜田雅功さんとのトーク部分。松本さんの主張を抜粋すると「最近特に耳にする、よくみんな使っている逆ギレ。本来なら怒られ(キレられ)なあかんのに、逆にそれを防ぐがために、逆にこっちから怒るのが逆ギレや」というものでした。

 松本さんが言外に込めたであろうニュアンスを補ってみます。「本来は相手が怒っている(または今にも怒りだしそうな)場面で自分の方が逆に怒り出すことによって、相手優位の立場をうやむやにし、または居直ってその場をやり過ごすこと。それが今日では相手の怒りの有無に関係なく怒ったり、激高したりしている場合にも使われているのはおかしい」

 お笑い界のカリスマによる「相手にキレられていなければ『逆』とはいえへんやんか」という、世間への「ツッコミ」。国語辞典へも影響を与えたとみられます。2002年、初めてこの項目を採用した明鏡国語辞典の語釈は「きれて怒っている人に対し、怒られる立場の人や冷静なほうの人が急に怒り出すこと」。「冷静なほうの人」という注釈を加えることで、逆の意味を自然に解説しようと試みています(表参照)。

■広辞苑も収録、国語辞典に苦心の跡

 14年も昔の松本さんの指摘は的確でした。今日では相手が怒っている場合に使う用法は少なくなっており、例えば穏やかに注意した場合も含めて拡大解釈されています。後に続く国語辞典にも苦心の跡がありあり。広辞苑の「それまで叱られたり注意を受けたりしていた人が、逆に怒り出すこと」こそ極めてオーソドックスな解釈ですが、広辞苑にまで採録された事実自体に大きな意味がうかがえます。「なだめている人、または怒られている人が」(デジタル大辞泉)、「とがめられた人が、あやまるべきなのに」(例解新国語辞典)、「本来は注意を受けるべき人が」(新選国語辞典)、「受けている叱責やからかいに我慢できず」(岩波国語辞典)など、それぞれに独自の表現を競っているようでもあります。

「逆ギレ」を収録している主な国語辞典
国語辞典発行年(版)語釈
明鏡国語辞典(大修館書店)02(初版)(俗)きれて怒っている人に対し、怒られる立場の人や冷静なほうの人が急に怒り出すこと。「上司に注意されて――する」▽逆にきれる意。(表記)多く「逆ギレ」と書く
大辞泉(小学館)07(デジタル)なだめている人、または怒られている人が、かっとなって怒り出してしまうこと
例解新国語辞典(三省堂)07(7版)とがめられた人が、あやまるべきなのに、とがめた人に対して逆にはげしく怒ること。最近できた俗なことば。(用例)マナーを注意されて逆切れする
広辞苑(岩波書店)08(6版)(「逆に切れる」から)それまで叱られたり注意を受けたりしていた人が、逆に怒り出すこと
新選国語辞典(小学館)11(9版)本来は注意を受けるべき人が、逆に怒り出すこと
岩波国語辞典(岩波書店)11(7新版)(俗)受けている叱責やからかいに我慢できず、逆に怒り出す状態。「――を起こす」。「逆ギレ」とも書く

(注)発行年は初めて収録した版の奥付に、語釈は最新版による。大辞泉はデジタル版に追加された年

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