レーウェンフックが作った顕微鏡(レプリカ)

彼は顕微鏡を自分で作り、つかれたように観察を行った。その顕微鏡は、現在の顕微鏡とは似ても似つかない、金属製の靴べらに細かなネジがつけられたような形をしていた。靴べらにはガラス球の単レンズがはまっていただけだった。

しかしその原始的な顕微鏡は、驚くなかれ300倍近い倍率を実現していた。これは今、私たち研究者が使っている光学顕微鏡に匹敵する。レーウェンフックは、レンズ磨きに秘技を持っていたのだ。

顕微鏡の観察を通して、水たまりの中に微生物がキラキラと泳ぎ回っていることを見つけた。動植物の組織が小さな区画=細胞からできていることを知った。生きたままオタマジャクシの尾を観察し、血液の流れの中に粒があることに気づいた。あげくに精液まで見て精子を発見した。

彼は限りないミクロの小宇宙の扉を開いたのだ。

アマチュアとは「何かをずっと好きであり続ける人」

レーウェンフックは17世紀、オランダの人。日本はまだ江戸時代が始まったばかりだった。彼は正規の教育を受けた科学者ではなかった。織物商の家に生まれ、織物商人として育った。

彼は言葉の純粋な意味でアマチュアだった。アマトール=何かを愛する人。何かをずっと好きであり続けた人。そのことが昆虫少年だった私の心に響いた。

顕微鏡を手作りしたレーウェンフック。アマチュア・サイエンティスト。レーウェンフックとの出会いが、私を17世紀の豊かな時代にいざなった。科学と芸術が自由に往還していた時。そこで私は、光の天才画家ヨハネス・フェルメールと出会うことになる。

福岡伸一(ふくおか・しんいち) 1959年東京生まれ。87年、京都大学大学院博士課程修了。米ハーバード大学医学部フェロー、京都大学助教授などを経て04年より青山学院大学教授。主な著書に『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』『フェルメール 光の王国』。近著に『動的平衡2』。「生命とは何か」をわかりやすく解説し、人気を博す。最新のデジタル印刷技術によって複製したフェルメール全作品を展示する「フェルメール・センター銀座」の監修および館長も務める。
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読者からのコメント
yasuo25337 40代男性 茨城県
私はおたくではないのですが同じように顕微鏡には興味を持っていました。ミクロの世界はすばらしくやはり100倍程度の簡易顕微鏡で手当たり次第に観察していたのを憶えています。初めにのぞいたのは雨水にいたアメーバの分裂期でした。ラッキーでした。
30代男性 北海道
アマチュアとは何かをずっと好きであること。この言葉聞いて少し人生観が変わった気がした。

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