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医人たちの挑戦

「脱赤ひげ」 へき地医療の新しい形 夕張市立診療所医師・森田洋之さん(2) 地域とともに生きる医療へ

2012/1/22

 先日とてもショッキングな報道がありました。北海道にある人口約380人の島でただ一人の医師ががんと診断され、治療のため島を離れるというのです。

「支える医療」と「脱赤ひげ」を旗印に夕張の医療改革に取り組む。「日本の医療改革のひとつのモデルにもなるはず」と話す

 へき地医療を志し都会からやってきて約10年、地域からほとんど出ずに一人で住民の健康を守られた素晴らしい先生です。私も代診に赴いたことがありますが、患者の言葉の端々からその先生への絶大な信頼を感じました。24時間365日、常に自分たちの健康を守ってくれる医師が何十年と継続して近くにいてくれる、これは本当に素晴らしいことで、住民にとってこんなに心強いことはないのだと思います。

 しかし、その医師が去った後に新たな医師はやってくるでしょうか? 残念ながらへき地に医師を招くことは非常に困難なのが現実です。技術の習得や子供の教育を考えた時、どうしても赴任に二の足を踏んでしまい、医師だけでなく他職種でもへき地勤務は敬遠されがちです。では、どうしたらいいのでしょうか?

 私は九州の宮崎県から北海道の夕張へ赴任しました。夕張では今までの地域医療とは一味違う、新しい地域医療の形を実践していると聞いての志願でした。その一つが「脱赤ひげ」という大きな理念です。

 もちろん「赤ひげ先生」は依然として素晴らしい医師像ではありますが、みなさんが思い浮かべるような「地域に何十年も根を張って、24時間365日、住民の健康を守る」という赤ひげ像は、今の若い医師が理想とする医師像ともはや大きく乖離(かいり)してしまっているのが現実です。それであれば、地域ならではの「豊かな自然」や「柔軟な勤務体制」を売りにして医師に来てもらおうというのが「脱赤ひげ」の趣旨です。

診療所の建物内には、老人保健施設も併設され、30~40人が入所している。デイサービスも行う

 理念に賛同した若い医師たちが徐々に集まるようになり、現在、私を含め家族で夕張に定住し勤務している医師が2人。さらに2人の医師が近く夕張に引っ越して来る予定です。総合診療、在宅医療などの経験ができるという点も大きな理由ですが、1~数年の勤務、週1日からの勤務でも認めるという柔軟な勤務条件も若い医師から支持されています。

 北海道の豊かな自然の中では子供と一緒に釣りや畑作り、雪遊びもできますし、地域の人たちとも交流できます。都会ではできない様々な経験は子供たちの人生も豊かにしてくれるはずです。

 もちろん、フルタイム勤務に比べれば給与はその分下がります。勤務時間が少ないので当然です。これもワークシェアリングの一つの形でもあると考えています。子育てなどを理由に働きたいのに働けない誰かがいるのなら、夜中まで働いている誰かは、少し収入が減ったとしても職と経験と富を分かち合う。夕張市立診療所では医師だけでなく看護・介護職・事務など多職種でシェアリングが進んでいます。ワークシェアリングの一つのスタイルとしても「脱赤ひげ」は価値があるのかもしれません。

 全体のパイが大きくなりにくいこれからの時代、みんなが少し我慢して「分け合う」ことも必要なのではないでしょうか。特に医療・介護分野は、雇用が急増している数少ない分野です。この分野でワークシェアリングを考えることは、日本の将来につながる試みになるかもしれません。

 「モア」よりも「シェア」。医師は給与を少し我慢、職員も残業を少し我慢、住民は「医師が1~数年で変わる」という不満を少し我慢。みんなが少しずつ我慢することで医療がうまく回るのであれば、それはすてきなことかもしれません。

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 森田洋之(もりた・ひろゆき)1971年生まれ。97年一橋大経済学部を卒業後、2003年宮崎医科大医学部を卒業。宮崎県内の総合病院で初期・後期研修を終え、09年4月から夕張希望の杜夕張市立診療所に医師として勤務。10年には宮崎県延岡市の健康長寿アドバイザーも務め、コンビニ受診に関する調査などを実施。夕張では在宅医療を中心とした地域包括ケアを実践。内科医。

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 へき地医療、医師の偏在、医療事故――。「医人たちの挑戦」は、転換期にある日本の医療現場で逆境に立ち向かう人の姿を隔週で紹介するコラムです。医師や患者ら6人の筆者が、それぞれの体験を通して日本の医療の今をつづります。

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