夢を語れるリーダーの権威を生む読書法とは  アサヒグループホールディングス社長 泉谷直木氏

年間100冊ほど買うが、自宅の本棚は2つ。あふれる本は迷わず処分する。しかし50年近く大事に残している本がある

泉谷直木アサヒグループホールディングス社長

高等学校に入る前後に読んだ、数学者の岡潔さんの『春宵十話』と『紫の火花』です。子供のころは世界少年少女文学全集のようなものをよく読みました。しかしいろいろ考えるきっかけを、初めて与えてくれたのは岡さんの本でした。

岡さんは宗教にも造詣の深い方で、味わい深い随筆集です。「人の中心は情緒である」で始まる『春宵十話』は特によく読みました。人間的な感情を水に例えて、下の方にあって変わらない部分が「情操」で、その上で感受性豊かに波立っているのが「情緒」だと書いています。

「情操のしっかりした日本人が減ったから、情緒が乱れる」と嘆き、「よい情操を培うことの大切さ」を強調しておられる。知性が薄くなるのは「小学校で道義を教えるのを忘れ、高等学校では理性を入れるのを忘れているのだから」と、教育の貧困を批判しています。

また「たくましさはわかっても、人の心のかなしみがわかる青年がどれだけあるだろうか。人の心を知らなければ、物事をやる場合、緻密さがなく粗雑になる」と戒めています。10代で純真だったのでしょう。心に染みました。

経営でも、短絡的に合理性だけを追求したら行き詰まります。資本市場で評価されなければ駄目ですが、世の中から必要とされ信頼される良い会社を目指さなくてはいけません。合理的なものと情緒といった非合理な面とをいかにうまくバランスさせるかが大事だと思います。

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