「全然いい」といった言い方を誤りだとする人は少なくないでしょう。一般に「全然は本来否定を伴うべき副詞である」という言語規範意識がありますが、研究者の間ではこれが国語史上の“迷信”であることは広く知られている事実です。迷信がいつごろから広まり、なぜいまだに信じられているのか。こうした疑問の解明に挑む最新日本語研究を紹介します。

明治から昭和戦前にかけて、「全然」は否定にも肯定にも用いられてきたはずですが、日本語の誤用を扱った書籍などでは「全然+肯定」を定番の間違いとして取り上げています。国語辞典で「後に打ち消しや否定的表現を伴って」などと説明されていることが影響しているのか、必ず否定を伴うべき語であるようなイメージが根強くあるようです。
「否定を伴う」 広まったのは昭和20年代後半
10月22~23日に高知大学で開催された日本語学会(鈴木泰会長)の秋季大会。国立国語研究所の新野直哉・准教授をリーダーとする研究班(橋本行洋・花園大教授、梅林博人・相模女子大教授、島田泰子・二松学舎大教授)が、「言語の規範意識と使用実態―副詞“全然”の『迷信』をめぐって」をテーマに発表を行いました。
研究班では、「最近“全然”が正しく使われていない」といった趣旨の記事が昭和28~29年(1953~54年)にかけて学術誌「言語生活」(筑摩書房)に集中的に見られることから、「本来否定を伴う」という規範意識が昭和20年代後半に急速に広がったのではないかと考えています。しかし、発生・浸透の経緯については先行文献では解明されていないため、先行研究が注目しなかった戦後を目前に控えた昭和10年代(35~44年)の資料に当たり「全然」の使用実態を調べることで、規範意識が当時からあったのか考察することにしました。