文化庁が9月15日に発表した「国語に関する世論調査」で取り上げた「情けは人のためならず」「雨模様」「姑息(こそく)」「すべからく」「号泣する」の5語。本来の意味(正用)と本来とは違う意味(誤用・慣用)を並べて、どちらを使うか尋ねたところ、誤用が広がっている実態が浮き彫りになり話題となりました。この5語について、市販されている主な国語辞典21種が誤用にどう対応しているか調べ、辞書の個性を探りました。
違いが鮮明に
辞典名 | 版 | 出版社 | 発行年 | 情け | 雨模様 | 姑息 | すべからく | 号泣 |
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旺文社国語辞典 | 10 | 旺文社 | 2005 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
講談社国語辞典 | 3 | 講談社 | 2004 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
日本語大辞典(中) | 2 | 講談社 | 1995 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
角川必携国語辞典 | 11 | 角川 | 2010 | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ |
岩波国語辞典 | 7 | 岩波書店 | 2009 | ○ | ◎ | ○ | ○ | ○ |
広辞苑(中) | 6 | 岩波書店 | 2008 | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ |
ベネッセ新修国語辞典 | 初 | ベネッセ | 2006 | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ |
新明解国語辞典 | 6 | 三省堂 | 2005 | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ |
日本国語大辞典(大) | 2 | 小学館 | 2000 | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ |
新潮現代国語辞典 | 2 | 新潮社 | 2000 | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ |
集英社国語辞典 | 2 | 集英社 | 2000 | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ |
三省堂現代新国語辞典 | 4 | 三省堂 | 2011 | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ○ |
新選国語辞典 | 9 | 小学館 | 2011 | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ○ |
学研現代新国語辞典 | 4 | 学研 | 2008 | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ○ |
小学館日本語新辞典 | 初 | 小学館 | 2005 | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ○ |
大辞泉(中) | 増補・新装 | 小学館 | 1998 | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ○ |
現代国語例解辞典 | 4 | 小学館 | 2006 | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ○ |
大辞林(中) | 3 | 三省堂 | 2006 | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ○ |
例解新国語辞典 | 7 | 三省堂 | 2006 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ |
明鏡国語辞典 | 2 | 大修館 | 2010 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
三省堂国語辞典 | 6 | 三省堂 | 2008 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
※辞典名の後の(大)は大型辞典、(中)は中型辞典、その他は小型辞典を表す
表を見てください。正用の語義のみ掲載している辞書に○、正用のほか誤用や慣用に触れている辞書には◎を入れ、○の多い順に上から並べてみました。「正しい意味しか載せない」規範性の強い辞書から、広く誤用表現を取り入れた辞書まで順に一覧できるようになっています。この表から規範性が強いといえるのが、誤用には一切触れていない旺文社国語辞典など3種。それに○が4つの角川必携国語辞典など8種が続きます。逆に言葉の変化を積極的に取り入れているのが◎が5つの三省堂国語辞典と明鏡国語辞典、4つの例解新国語辞典の3種になります。そのほか7種は中間派と考えていいでしょう。わずか5語の調査ですが、その違いがはっきりと見えてきました。
辞書を言葉の規範と考えれば誤用を載せないことはひとつの見識であると思います。一方で言葉の使用実態に合わせ誤用から慣用への変化を記述することも辞書の大事な役割です。どちらに比重を置くかが各辞典の編集方針であり、その違いが表のような結果に表れているといえます。
国語辞書研究室を主宰する倉島節尚・大正大名誉教授は「多くの辞書は新しい慣用に対して基本方針を決めると、改訂してもなかなか態度を変えない。その慣用が一般化し定着の度を強めると、取り上げる辞書の数はゆっくりと増える」と指摘します。その典型といえるのが広辞苑で、規範性を守りつつ「情けは人のためならず」の誤用について最新の6版から触れるようになりました。