22日開幕、実力派と新鋭が競うコンペ
東京国際映画祭リポート(1)
話題作多い「アジアの風」
国内最大の映画祭、東京国際映画祭が22日、開幕する。東京の六本木ヒルズを中心に30日まで開かれ、自主企画だけで126作品、提携企画を含めると354作品を上映する。1985年に始まって、今年で24回目。依田巽チェアマンは「知名度の高い、存在感のある作品が増えてきた」と胸を張るが、果たしてどうか? まずはラインアップから見どころを探ってみよう。
映画祭の顔であるコンペティション部門には15作品が選ばれた。国際的に実績のある著名監督の作品もあれば、無名の新鋭監督の作品も多い。両者が競い合うのは近年の東京映画祭のコンペの傾向でもある。
前者にあたる実力派監督としては、「イン・ディス・ワールド」のマイケル・ウィンターボトムと「彼女を見ればわかること」のロドリゴ・ガルシアが挙げられる。「今年は欧米の有力作を積極的に取りに行った」と矢田部吉彦作品選定ディレクター。
ウィンターボトムの「トリシュナ」(英国)はトマス・ハーディ「テス」の翻案だ。舞台をインドに移し、「スラムドッグ$ミリオネア」のフリーダ・ピントが主演する。社会派の印象が強いウィンターボトムだが、過去にもハーディ原作の「日蔭のふたり」を撮っている。かつてはロマン・ポランスキーも手がけた「テス」に、どう挑むか。
ロドリゴ・ガルシアの「アルバート・ノッブス」(アイルランド)は、グレン・クローズが主演した舞台の映画化で、映画でもクローズが主演する。女性が自立するには男性として生きなければならなかったという19世紀のアイルランドで、性を隠して執事として生きた女をクローズが演じる。クローズ自身がプロデューサーを務め、脚本も書いた。
ほかに「チャーリーとパパの飛行機」などで知られるセドリック・カーンの新作「より良き人生」(フランス)、香港ホラーの鬼才オキサイド・パンの「夢遊 スリープウォーカー」(香港=中国)など。日本からは「南極料理人」が高く評価された沖田修一の第2作「キツツキと雨」が選ばれた。
「新しい才能も発掘していきたい」と矢田部氏が言う通り、監督にとっての長編第1作というものもある。ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督作品の俳優として知られるムザッフェル・オズデミルの「ホーム」(トルコ)、アルトゥーロ・ポンスの「羅針盤は死者の手に」(メキシコ)がそうだ。
毎年充実したプログラムが組まれる「アジアの風」部門には参考上映も含め33作品が集まった。
モルテーザ・ファルシャバフの「嘆き」(イラン)は14日に閉幕したプサン国際映画祭で最高賞を獲得した注目作だ。聴覚障害者の夫婦と両親を失った少年のロードムービーで、手話による会話で物語が進んでいくという。中国ドキュメンタリーの旗手、ワン・ビンの撮影監督を務めたルー・シェンの長編デビュー作「ここ、よそ」(中国)も興味深い。
ほかにも話題作は豊富だ。傑作「チェイサー」でデビューしたナ・ホンジンの第2作「哀しき獣」(韓国)、ドキュメンタリーの実力派であるリティー・パニュが大江健三郎の原作をカンボジアを舞台に翻案した「飼育」(フランス)、劇画家・辰巳ヨシヒロの自伝的作品をアニメ化したエリック・クーの「TATSUMI」(シンガポール)など。韓国、日本、マレーシアなどアジア各国でプロデューサーとしても女優としても活躍している杉野希妃の特集も組まれる。
特別上映で見逃せないのは、黒澤明の通訳を長年務めたカトリーヌ・カドゥーのドキュメンタリー「黒澤 その道」(フランス)。マーチン・スコセッシ、クリント・イーストウッド、ベルナルド・ベルトルッチ、テオ・アンゲロプロス、宮崎駿など世界の第一線の映画監督11人が、黒澤映画の魅力を語る。今年のカンヌ映画祭で上映されて話題になった作品で、黒澤映画が現代の世界映画にどのような影響を与えたかを検証できる。
中断していた回顧上映部門が4年ぶりに復活したのも朗報だ。「香川京子と巨匠たち」は溝口健二、小津安二郎、黒澤明ら日本映画の巨匠たちに重用された大女優の代表作を集めた。話題はデジタルリマスター版の「東京物語」。小津の代表作であり、世界映画史上の傑作でありながらオリジナルネガが失われたフィルムがどうよみがえったのだろうか。
香川自身が「最も思い出深い」という溝口の「近松物語」や、監督の豊田四郎にとっても、香川にとっても代表作である「猫と庄造と二人のをんな」も、この機会にどうぞ。
若者にとってうれしいのは学生料金の新設だ。当日券に限って500円で購入できるようになった。近年の学生の映画離れは映画業界にとって頭の痛い問題であり、若い観客が多いか少ないかは映画祭の盛り上がりも大きく左右する。映画祭の将来を担う人材が客席から育ってほしい。
(編集委員 古賀重樹)
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