「NASA流」極限訓練で学んだこと若田光一 JAXA宇宙飛行士

ISSのクルーと(2009年6月撮影、NASA提供)

訓練中、私は厳しい判断を迫られることになりました。登山開始直前に風邪を引き、40度近い熱を出してしまったのです。訓練ではチーム全員が一緒に行動するという前提があるので、1人だけ置いていくことはできません。一緒に登頂するか、引き返すかの2つに1つです。

私が頑張りすぎて倒れてしまったらその時点でミッションはおしまいです。自己管理能力がないと評価されてしまう。体温変化や心理状態、疲労度など自分の正確な状態をしっかり把握した上で、どこまで頑張れるか頑張れないかを判断しなければいけない。もちろん主観的な分析だけではなく、仲間やリーダーの意見を聞きながら判断していきます。

仲間たちは私の荷物の一部を持ってくれました。登山のペースや休憩にも配慮してくれて、睡眠も多めにとらせてもらいました。連日、朝晩体温と脈拍を測り、その都度メンバーと登山を継続すべきかどうかを相談する。水分補給を徹底して、何とか食事ものどを通り始めました。その結果、体温が40度を超えることはなく、全員での登頂に成功したのです。宇宙でも体調不良はあり得ます。自分の限界を知る意味でも、仲間それぞれの人柄を知る機会としても、この訓練で得たものは大きかったと思っています。

日本はリーダー教育の強化を

NASAに限らず、米国では学校や職場などでもリーダーシップを学ぶ機会が多いように感じます。日本ではどうでしょうか。私は高校まで野球をやっていましたが、スポーツでキャプテンを務めるのもリーダーとしての良い訓練になると思います。学級委員など多くの人をまとめる立場でも同じでしょう。そうした機会に加えて、積極的にリーダーを養成する教育カリキュラムがもっとあってもいいのかな、と思います。

今回の東日本大震災では、多くの方々がボランティア活動に参加しました。こうした活動はリーダー教育という観点でも意味があると思います。難しい状況下で目的を達成するためにチームをまとめていくことが求められますから、集団行動におけるリーダーシップを学ぶ格好の機会となるでしょう。できれば1つの組織だけではなく、複数の団体に参加して活動した方がいいでしょう。そうすることでさらに視野を広げることができると思います。チームはリーダーとフォロワーで構成されています。リーダーの下でどのように行動するかというフォロワーシップを学ぶ機会も必要なのです。みんながリーダーのような言動をしていては、チームは動きませんから。

若田光一(わかた・こういち) 1963年、埼玉県生まれ。九州大学で航空工学を専攻。同大学院修士課程(応用力学)修了後、日本航空に入社。2004年博士号取得(航空宇宙工学)。92年4月、宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構、JAXA)の宇宙飛行士候補に選ばれる。同年8月、米航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士訓練コースに参加する。
96年、日本人初のミッションスペシャリスト(搭乗運用技術者、MS)としてスペースシャトルに搭乗。2000年には、日本人で初めて国際宇宙ステーション(ISS)の組み立て飛行に参加する。作業中にカメラが故障したにもかかわらず、精度を落とさずに組み立て作業を成功させ、NASAから「ロボットアーム操作の腕前は現役飛行士の中でも3本の指に入る」と絶賛された。
09年3月から7月にかけ日本人初のISS長期滞在を果たす。技術力と経験、周囲を魅了する人柄への評価は高く、10年3月にはNASAで宇宙飛行士を統括する宇宙飛行士室ISS運用ブランチ・チーフに就いた。
2013年から14年にかけての長期滞在では、後半のミッションで日本人初のISS船長(コマンダー)に就任する予定。3回の宇宙飛行での総滞在時間は159日10時間46分。現在JAXA宇宙飛行士グループ長。48歳
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