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舞台・演劇

坂東玉三郎 特別舞踊公演鍛錬を重ねた果ての唯一無二の美学

2011/10/10

舞台・演劇

名女形の坂東玉三郎は歌舞伎役者というより、舞踊家として立つ意識の強いアーティストである。モーリス・ベジャールのバレエ団に客演したり、中国の昆劇と合同公演を敢行したりと「世界性」を視野に入れた活動で異彩を放っている。佐渡の太鼓集団「鼓童」の芸術監督に就任するニュースが先に流れたけれど、歌舞伎という限られた世界を超えた存在感をもつ舞台人といえる。

日生劇場の特別舞踊公演は、そんな玉三郎の進取の精神を感じさせるものだった。「傾城(けいせい)」「藤娘」「楊貴妃」というプログラムで、目下の玉三郎の美の世界のありようを構成した。

まず長唄舞踊の「傾城」。題名は色香の魅力で国や城を傾けさせるほどの美女、転じて遊女の意で、江戸は吉原仲之町で随一の花魁(おいらん)の恋心を舞う。玉三郎の新構成では最初に花魁道中があり、美しい絵のような視覚的驚きから開始される。この登場の目の覚めるような鮮やかさは、なんといっても玉三郎ならでは。

次いでおなじみの「藤娘」だが、舞台装置に新しい主張がある。松の大木があって藤棚の藤が咲き乱れているのは同じなのだが、松の幹は上手側に寄り、中心にはない。見なれた「藤娘」からはかけ離れている。松は幹よりも張り出した枝の方に力点がある。

この舞踊は名優、6代目尾上菊五郎の演出が規範となってきた。もともと「大津絵」(近江の三井寺あたりの民芸絵画)から抜け出た娘による舞踊だったのを、藤の精が舞う幻想的な構成にし、自然のエロスと結び合う官能的な舞に一新したといわれる。6代目はバレエのアンナ・パブロワらに触発されて日本舞踊を革新した天才で、玉三郎の敬慕の念も深い。今回の試みに自身、感慨深いものがあるだろう。

この舞台の中央は巨樹の幹にかわって、クリーム色のホリゾント(背景)となる。玉三郎はこれを日本画の余白のように使って、いわば自身を置いた絵として見せていく。いくぶん細身の幹から藤の花をかき分け、中央に進みでる。木と戯れる、自然児としての娘の趣。これについてはロビーの識者の間でも意見が割れた。藤の精という神秘の存在が等身大の娘になったという消極的な見方。また、新しく動く玉三郎の姿勢を評価する積極的な見方。

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