日本は売り手

「日本人はどうしているの」。金塊などを扱う田中貴金属ジュエリー(東京都中央区)に向かうと、応対してくれた水木直人さん(62)は「早くから金を売っていました」と話す。今年8月、同社の東京・銀座の店舗は金のアクセサリーを売りたい人であふれた。「8時間待ちの日もありました。値上がりして利益が出たから、手放そうと考えたのでしょう」

しかも、日本は金の輸出国になっていた。貿易統計などから推計すると、今年1~6月の輸出量は50トン以上。貴金属店に持ち込まれた金のアクセサリーが溶かされ、金塊となり輸出されているとみられている。

「まだ値上がりしていたのに、なぜ」。詩音の疑問を経済史が専門の東京大学社会科学研究所准教授の中林真幸さん(42)にぶつけた。中林さんは「預金や現金で十分だと思っているんですよ」と切り出した。物価が下がり続けるデフレの日本は、利子がほとんどつかなくてもお金の価値は増える。「土地への愛着も強いですし、あえて財産として金を持つことにこだわりが少ないのでしょう」

不安心理と連動

国際金融に詳しい一橋大学経済研究所教授の北村行伸さん(55)にも聞いた。「金が買われるのは、人々が不安なときです」。同じように金が値上がりした1980年ごろは、米国と旧ソ連が対立する冷戦のまっただ中。79年に旧ソ連がアフガニスタンに軍事介入し、米国との対立が深刻になった。「『有事の金』といって戦争などが起こると金が値上がりしました」

さびない金は宝飾品や金貨として使われてきた。これまでに掘り出されたのは、わずかオリンピックの50メートルプール3杯半ほどと、希少価値もある。

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