ライフコラム

ことばオンライン

建設業界は「動線」、百貨店は「導線」 ドウセンその違いは?

2011/9/20

建物の中などを人や物が移動する際に軌跡や方向を表し、「○○のドウセンを確保する」のように使われるドウセンに当てはまる漢字を思い浮かべてください。一般的には「動線」が適切ですが、特定の業界では「導線」も使います。ところが両者は本をただせば別の言葉で、本来の意味からは“平行線”の関係だったはずなのです。動線と導線に意味の重なりが生じた理由を探ると、2本の線を結んだ「斜めの線」の存在が浮かんできました。

■国語辞典は「導線=電線」

流通用語辞典の「動線」(上)と流通業界用語辞典の「導線」

精選版日本国語大辞典(小学館)によれば動線は「建築物の内部、あるいはその周辺で、人や物などが移動する軌跡・方向などを記した線」、導線は「(1)電流を通すための導体の針金。導体には銅、アルミニウム、鉄などが用いられる。電線」。辞書的な意味では両者の違いははっきりしています(なお導線の(2)の意味として曲線に関する数学用語もあります)。「導線」に上記のような「動線」としての意味を認めた国語辞典も見当たりません。

専門用語のようにも感じられる言葉ですが、台所や浴室などをつなぐ「生活動線」「家事動線」(「生活導線」「家事導線」という表記では変です)を考えてみれば日常生活にも密接しています。この線の良しあしは建物の設計次第。同辞典に収録された最古の用例も1939年発行の「小住宅厨房の研究」にあり、建設業界発祥の用語とみてよさそうです。

ルーツの業界だけあって用法も古くからの伝統を守っています。大手総合建設会社は「みな動線を使っている。よほど何かを意図している場合を除いて導線は使わない」、業界団体も「導線はもともと電線という意味。時々動線と混ざって使われているのは混用ではないか」ときっぱり。建設業界では人の動きには動線、電線の配線などには導線と、どちらの用語も使用されるだけに、万が一ドウセンの意味を取り違えては一大事。両者の峻別(しゅんべつ)も納得できます。

■専門用語集では「動線と同じ」

「動線」を掲載してい る用語集と解説
建築学用語辞典(第2 版、岩波書店)
建築・都市空間における人や物の動きの量、方向、つながりな どを示す線
ショッピン グセンター用語辞典(新版、学文社)
人やものが移動する経路や軌跡のこと
流通用語辞典(新版、 日本経済新聞出版社)
客や従業員が店内を歩く軌跡のこと
ロジスティ クス用語辞典(日本経済新聞出版社)
(「動線計画」という項目で)倉庫、工場、店舗内などにおい て、人や物の動きを分析することで、効率的なレイアウトを計画すること

「導線」を掲載してい る用語集と解説
流通業界用語辞典(日 本実業出版社)
店舗の中で消費者が歩く道筋のこと

(注)解説は一部略

両者の違いについて触れた国語辞典がない以上、各種専門用語集の力を借りてみます。表の通り建築学、ショッピングセンター、流通、ロジスティクスといずれも掲載は「動線」のみ。「導線」を載せている数少ない用語集も解説は「動線」とほぼ同様で、動線との関係についての指摘もありません。

そこでインターネット上のホームページに目を転じると、佐川急便を傘下に持つSGホールディングスの物流子会社、佐川グローバルロジスティクス(東京・品川)は「物流用語集」で導線を「動線と同じ」と定義。動線を主見出しとした理由は「物流とは『物の流れ』。物が動いた線であり、作業者を動かす線である。(作業導線ではなく)作業動線という通り」との回答でした。

他には財団法人・日本ホテル教育センター(東京・中野)の「ホテル観光用語事典」も見出しは動線だけですが、「客動線のことを客を導くという意味から導線と表現する場合もある」と注記しています。注目すべきは「客を導く」という部分。というのも前出の大手総合建設会社が例外的に導線を使う可能性があると答えた「よほど何かを意図している場合」も、「客にその場所を通らせるために導く」ニュアンスを出すためというもの。「客を導く」意味に特化し、ほとんど「導線」を用いているのが百貨店業界です。

ライフコラム 新着記事

ALL CHANNEL