目と耳で体感、音楽を絵にした画家クレーの手法とは

スイス・ベルンのパウル・クレー・センターが所蔵する「ポリフォニックにはめ込まれた白」(*)は、音楽の一形態である「ポリフォニー」をテーマにしている。この作品を例に、クレーがどのようにして音楽を絵画に応用したかを見ていこう。

「ポリフォニー」とは、バッハ以前の時代に盛んに作曲された、複数声部のメロディーが複雑に絡み合う音楽だ。始めるタイミングをずらして全く同じメロディーを奏でる「カノン」や、タイミングと調を変えながら同じメロディーを展開する「フーガ」はその代表的な例である。フーガの例を聴けるように、コンピューターで制作した音楽ファイル、ヨハン・セバスチャン・バッハ「小フーガ ト短調」を置いた。

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「ポリフォニックに囲まれた白」(パウル・クレー・センター蔵)
画像をクリックするとウインドウが立ち上がり、クレーの描き方を解説した動画が流れます。音量にご注意ください


では、クレーは、「ポリフォニー」を絵画の上でどう実現したのだろうか。(左の絵をクリックすると絵と音を使った解説が見られます)

チューリヒ大学美術史研究所の柿沼万里江研究員によると、多数の長方形で構成された「ポリフォニックにはめ込まれた白」には、「青、赤、オレンジの3色の水彩絵の具しか使われていない」という。ところが、画面にはもっとたくさんの種類の色がある。なぜだろうか。以下の実践法を理解すると、理由が見えてくる。

1)準備した白い紙の一部に、青の絵の具を薄く塗る。この作品ではL字形に塗られている。

2)乾いた後に、形を違えて同色の絵の具を重ねて塗る。二重に塗られた部分は色が濃くなり、青が2種類になる。

3)その上に重ねて、赤とオレンジでも同じ作業を繰り返す。この作品では、青が2層、赤とオレンジはそれぞれ3層ずつ、最高で8層が重なる部分が出ることになる。

重なり方によって色に違いが出るので、元は3色でも10種類を超える色を表現することができる。光を透過しない油彩絵の具ではなく、水彩絵の具ゆえに可能な手法である。

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写真をクリックすると、コンピューターで作成したフーガが流れます(バッハ「小フーガト短調」)。音量にご注意ください
写真は、1900年、ミュンヘンで通った画塾のアトリエで弦楽五重奏を楽しむクレー(右端)


ここで、一つの階層を一つの「メロディー」と考える。例えばバッハのフーガで「メロディー」の絡み合いが心地よい味わいを生むように、色の階層の絡み合いは新たな色の味わいを生む。それが、クレーが絵画で試みた「ポリフォニー」である。

柿沼さんがコンピューターで制作した重ね合わせの仕掛けを基にした動画を置いた。「ポリフォニック」な音をつけたので、音楽と絵の関係がよりわかりやすくなっているはずだ。興味のある方はご覧いただきたい。

なお、この作品で、クレーは真ん中部分を白いまま塗り残している。コンサートホールで楽曲の演奏が始まる直前の無音の状態を、この白に見いだすことも可能だろう。

*一部のブラウザーでは一度ウインドウを閉じた後は音楽が再生されません。

*この作品は、本展には出品されません。

展覧会名 パウル・クレー展―おわらないアトリエ
PAUL KLEE: Art in the Making 1883-1940
会 期 2011年5月31日(火)~7月31日(日)
会 場 東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園3-1)
観覧料 一般1500円、大学生1100円、高校生700円
開館時間 午前10時~午後5時(6月の金、土曜日は午後6時まで開館。入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日(ただし7月18日[月・祝]は開館

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