パウル・クレーのバーチャル美術館へようこそ

「音楽を絵にした」と一口にいっても、クレーの取り組みは実に多彩だ。オペラなどに想を得た作品の制作はもとより、複数のメロディーの組み合わせ、リズム、音の調和など音楽を形作る様々な要素や、五線譜や音符などの記号を絵画のための素材として、新しい表現を次々に生み出した。それは、バイオリニストとしての実践的な音楽経験にのっとり、美術学校の教師として音楽と美術の関係を探究したゆえの成果だった。

東京国立近代美術館で開催中の「パウル・クレー おわらないアトリエ」展の出品作を見ながら、クレーが絵画に応用した「音楽」を巡る旅に出かけてみよう。

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「襲われた場所」(1922年、30.7×23.1センチ、紙にペン、鉛筆、水彩、上下に水彩とペンによる帯、厚紙に貼り付け、パウル・クレー・センター蔵)
「襲われた場所」は、クレー自身が「特別クラス」に分類した作品の一つ。まず見るべきは、背景のグラデーションだ。クレーはしばしば、色の変化によって時間の経過を表した。この作品ではさらに、下部中央の譜面台のようなモチーフに視線をいざなう構図に注目したい。中央にいるのが指揮者の象徴だとすれば、周囲のモチーフは楽団員であり、絵はオーケストラを表現していることになる。背景の色面は、演奏会場に鳴り響く「音楽」と捉えればいいだろう。そう考えながら作品と向き合うと、色の濃淡が音の変化やうねりのように受け止められる。
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