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女性監督の充実、加瀬亮の好演

カンヌ映画祭リポート2011(4)

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NIKKEI STYLE

女性の進出は映画の世界ではいまさら特筆すべきことではないのだが、今年のカンヌではさらにその感を強くする。コンペ作品20本のうち、女性監督の作品は日本の河瀬直美監督「朱花(はねづ)の月」を含めて実に5本にのぼった。

12日から始まったコンペ部門の上映で、初日の2本はともに女性監督の作品だった。英国の中堅リン・ラムジーの「ウイ・ニード・トゥ・トーク・アバウト・ケヴィン」と、オーストラリアの作家ジュリア・リーの初監督作「スリーピング・ビューティ」だ。

ラムジー作品は力強かった。エヴァ(ティルダ・スウィントン)はキャリアと野心を犠牲にして出産するが、生まれてきた息子ケヴィンは幼いころから粗暴で反抗的な問題児。どんなに愛情を注いでも、裏切られる。

映画はエヴァの子育てを追う過去と、ケヴィンが15歳のときに起こしたある事件のために世間から白眼視されているエヴァの現在という、2つの時間軸を交錯させて進行する。浮かび上がってくるのは悲劇的な事件の真相と、母子の愛のどうしようもないすれ違いだ。ティルダ・スウィントンの演技がすばらしい。

41歳のラムジー監督は日本でも「ボクと空と麦畑」「モーヴァン」が公開されている。英国の労働者階級の現実を直視する社会派でありながら、そこに繊細な詩情を絡ませる。新作の題材は彼女の資質とぴたりと合っていて、緊迫感のある画面で最後まで見せ切る。

一方のリー作品はこれと対照的な官能的な作品。女子学生のルーシー(エミリー・ブラウニング)が学資稼ぎのために、あやしげな館で老人たちに奉仕する。題名から想像がつく通り、川端康成の「眠れる美女」と相通じる設定だ。リーは「老人が若い女をはべらせて眠るおとぎ話はソロモン王の物語から川端やガルシア・マルケスの小説まである」と指摘し「この映画はそれらすべてに感応している」と言っている。

リー作品は川端作品と違って、老人よりも若い女性の側に視点を置き、迷宮にさまよい込んでいく感覚を奇妙な映像で描き込む。変態的なコスチュームだけでなく、盆栽、屏風、人物などのオブジェが人工的な左右対称の構図に配され、あやしい雰囲気を増幅する。視点は川端と違うが、目指す官能性は似ているのかもしれない。謎めいた空間の中で、ブラウニングの白い裸身がまぶしい。

さらに13日の公式上映に先立って12日夜にプレス向けに上映されたフランスの女優、マイウェンが監督した「POLISSE」が傑作だった。パリ警視庁で児童虐待や未成年者の犯罪を担当する「未成年保護分隊」の活動を追いかける。フィクションでありながら、あたかもドキュメンタリーのような緊迫感がみなぎっている。

子供の人権が守られていないトレーラーハウスを一斉捜索したり、通りを眺めていて赤ん坊を激しく揺さぶる母親を偶然見つけて連行したり。子連れで警察に来て保護を求めるホームレスの母親もいれば、生々しい虐待の跡を見せる子供もいる。

08年にパルムドールを受けたローラン・カンテ監督「パリ20区、僕たちのクラス」を思わせる疑似ドキュメンタリーである。マイウェン自身も分隊の活動を報告するためのカメラマンとして出演し、狂言回しの役割を果たす。警官たちのリアリティーは香港の警察映画のそれを連想させるが、犯罪の中身がより身近なものだけに、さらに真に迫っている。

女性監督の活躍は一朝一夕になるものではない。ラムジーは短編コンペでの受賞以来、カンヌが育ててきた監督のひとりである。初の長編「萌の朱雀」に新人監督賞を与えられ、その後もコンペで着実に実績を築いている河瀬もそうだろう。リー作品の製作総指揮のジェーン・カンピオンもやはり短編コンペで発掘され、「ピアノ・レッスン」で女性初のパルムドール監督となった。

人材を育てるのに男女を問うてはいまい。ただ多かれ少なかれ男性社会であったかつての撮影所と違って、映画祭の世界は国籍や性差を超えて開かれている。映画祭の存在が女性進出の一助となったのは事実だろう。

「ある視点」部門は12日、ガス・ヴァン・サント監督の米国映画「永遠の僕たち」で幕を開けた。日本では加瀬亮の出演で話題となっているが、主演はヘンリー・ホッパー。ハリウッドの反逆児にしてアメリカニューシネマの英雄的俳優、デニス・ホッパーの遺児である。この作品もデニス・ホッパーへの献辞を掲げている。

両親を失って世間から落ちこぼれた青年イーノック(ヘンリー・ホッパー)と不治の病に冒されたアナベル(ミア・ワシコウスカ)という2人のアウトサイダーの物語である。いかにもデニス・ホッパーに捧げるにふさわしいアメリカニューシネマを想起させる設定だが、ガス・ヴァン・サントにとっても似つかわしいテーマだ。パルムドール作品「エレファント」でコロンバイン高校銃乱射事件を描いたこの監督は、常に弱者の側、疎外される側の視点から世界をとらえてきた。

加瀬はホッパーの親友役という最も重要な助演者として登場する。加瀬演じるヒロシは孤独なイーノックと2人でゲームに興じたり、散歩をしたり。不思議なことに現代の物語なのに、ヒロシは日の丸をつけた特攻服を着ている。実はヒロシは幽霊で、イーノックにしか見えないらしい。町の人々はぶつぶつ独り言を言うイーノックを「幽霊と話している」と気味悪がっている。

好演である。孤独が共振することで引かれあっていくイーノックとアナベルの2人を、ヒロシは落ち着いて見守っている。その存在が2人の心の旅を実在感のあるものにしている。それはヒロシが死者であり、しかも巨大な運命の中で死を選び取らざるを得なかった者だからなのだが、加瀬はこの難役を抑えた芝居で見事に演じ切った。

日本人俳優の国際的な活躍は、米アカデミー賞ばかりが入り口ではない。カンヌに集まる目利きたちは浅野忠信や麻生久美子の好演もちゃんと見て、チャンスを与えている。「アンテナ」「それでもボクはやってない」での主演のほか、「婚前特急」など脇役に回っても渋い演技を見せ続けている加瀬亮。さらなる飛躍に期待しよう。

(編集委員 古賀重樹)

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