地名の謎 大阪「阿倍野」それとも「阿部野」?

土地台帳が「倍」を使っていた明確な理由はさかのぼれないというが、歴史的に地名が混在するなかで近鉄側、行政側もそれぞれの理屈で表記を選んだ。どっちが正しいとは言い切れないようだ。

実際、阿倍野区内を散策すると『部』と『倍』が混在している。例えば神社。北畠地区の阿部野神社は「部」。一方、阿倍王子神社や安倍晴明を祭る安倍晴明神社など「倍」を使っている神社も多い。

行政が運営する公共施設は当然ながら「倍」ばかり。府立阿倍野高校、阿倍野消防署、市立阿倍野図書館。大阪府警の阿倍野警察署も開署した26年は「阿部野」署だったが、その後「倍」に切り替えたという。

半面、私立「阿部野学園幼稚園」は「隣接する阿部野神社の宮司が創立した幼稚園で、そのまま『部』の字を使った」(井内悌子理事長)。

混乱はないのか。「届け出などの際に住民が間違うことはあるかもしれません」と区役所の千葉さん。役所でも地図などを発行する際は「初校で間違っていることがあるので気をつけています」。市バスの停留所は「あべの橋」だが、大阪市交通局によると「正式名称は漢字で阿倍野橋」。まぎらわしいのでひらがなを常用しているという。

同地域に関する著作がある難波りんごさんは「いろんな字があった方が歴史を感じられて良い」と話す。表記の一本化を求める声が広がらないのは、多くの地元住民も同じ気持ちだからかもしれない。

最近は「ABENO」などとローマ字を使った商業施設も目立ち、表記の多様化は加速している。近鉄が2014年の完成を目指し同地区で建設中の日本一の超高層ビルはどの字を当てるのだろうか。

(大阪経済部 早川麗)

[日本経済新聞大阪夕刊オムニス関西2011年3月2日付]

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