寝込んだ後のシャワーは大丈夫?

シャワーや入浴の是非は苦によって異なっている。正解はいかに?

アメリカ人の友人が1週間ほどインフルエンザで寝込みました。電話を掛けると、その声はまだしゃがれ声です。なのに「とりあえず、まずは熱が下がったからシャワー!」と言うではありませんか。

「熱が下がったばかりだから、もう少し体を休めてからの方がいいんじゃない?」と私は思わず止めてしまいました。

すると「もう浴びちゃったわ。汗をかいたから、我慢できなかったんだもの」という返事。

「日本人だったらありえないわ。熱が下がったか下がらないかのうちにシャワー浴びちゃうなんて」。驚く私に「アメリカ人だったらみんなすると思うけど」と電話の向こうで友人は笑っていました。

その後、今度は息子がインフルエンザに。高熱が下がるやいなや、「汗をかいて気持ちが悪い」と、シャワーを浴びようとします。そのときはさすがに「まだ、早いんじゃない? もう少し様子をみなさい」としばらく我慢させました。

しばらくして冒頭の友人と会う機会があり、息子のケースが話題に上りました。するとその場に居合わせたフィリピン人の友人が「でも、熱があるときや寒気がするときに、お風呂に入るなっていうのは、日本だけじゃない?」と言い出しました。彼女に言わせると、熱が高いときは少しぬるめのお湯につかって体を冷やすのは熱さましとして効果的なのだそうです。「それに、寒気がするときは、温かいお風呂にゆっくりつかって体を温めるのは正解なんじゃないの」と主張します。

「でも、お風呂からあがったときに悪寒がしたりするから、体調が回復するまで入浴はよくないってお医者さんも言わない?」と私は問いかけました。するとフィリピン人の友人は「それは、日本のお医者さんでしょう? 昔からそう言われているからじゃないの。日本ではお風呂が外にあった期間が長いから、お風呂の後、外の冷たい空気に触れることを避けるためにそういったんじゃないかと思うわ」と指摘します。彼女の言葉にその場の一同は「なるほど」とうなずいてしまいました。

国による違いを確かめてみようとインターネットでアメリカのサイトを調べてみました。すると熱が出たときに浴びるべきは熱いシャワーか冷たいシャワーかといった議論はあっても、シャワーや風呂そのものがいけないという記述は見あたりません。健康に関する言い伝えをまとめたアメリカの本もいくつか眺めてみましたが、果たして入浴がいけないという話にはついに出合わずじまい。

やっぱり、日本独特の習慣なのかしらん。そう思って、貝原益軒の養生訓を見てみると「湯治」に関する記述に熱病の場合は入浴してはいけないとありました。どうやらこの辺にヒントがありそうです。言い出しっぺが益軒さんかどうかはわかりませんが、少なくとも江戸時代には体によくないとされていたようです。それが数百年後の今日でも、守られ続けているのかもしれません。

養生訓をよくよく読んでみると、入浴に関する部分に、熱い湯船に長くつかって体を温めすぎることがよくないともあります。そんなことをすると「気が減る」と益軒さん。その一方でほど良い温度のお湯を肩から背にかけるのはお勧めだとも書いています。冬は体が暖まるうえに汗が出ないので、これなら何度やってもOKと。もし現代に益軒さんが生きていたら、ひょっとすると病後のシャワーくらいは許容範囲だと言ったかも……想像力をたくましくして、そんなことも考えました。

アメリカの状況や養生訓の内容をフィリピン人の友人に報告したら、友人は古人の知恵にいたく感心したようです。侮るなかれ、江戸の知恵。

ちなみに益軒さんは養生訓で、春は余寒が厳しいので、風邪や咳(せき)の病気に要注意と呼びかけています。実は私も、今週はのどをやられてほとんど声が出ず。伊達の薄着はいけません。お出かけの時は、羽織る物をお忘れなく。

「シンプル家事」や季節感のある食卓など、子どもと一緒に体験したい暮らしの工夫や、親子のコミュニケーションについてつづります。

筆者紹介

佐光紀子(さこう・のりこ)=翻訳家・ナチュラルライフ研究家。日本の暮らしに合った、無理のないエコライフを提案している。著書に「男の掃除」(日経BP)「重曹大事典」(ブロンズ新社)など。1961年生まれ。メーカー、証券勤務を経て現職。東京在住。家族は大学生の長男と高校を卒業した次男、中学生の長女と夫。