写真3は日本人の毛髪の断面である。毛髪の中心部に空洞ができているのが分かる。

「太い毛髪ほど中心部が大きく、空洞ができやすい」と理化学研究所ゲノム医科学研究センター(横浜市)の藤本明洋さんは話す(必ず空洞ができるわけではない)。

毛髪は3つの層からできている(図4)。

最も外側を包んでいるのがうろこ状のキューティクル。これは固いたんぱく質が主成分で、髪の内部組織を守る働きがある。そのすぐ内側は繊維状のたんぱく質でできているコルテックス。毛髪の中心部はメデュラという柔らかなたんぱく質でできている。ちょうど「太巻きずし」のようにのりとご飯と具でできた三重構造だ。この中心部のメデュラが大きいほど、空洞になりやすい。

ここでひとつの仮説が浮上してくる。

キツネ、クマ、シカなどの毛にも空洞

「毛髪の内部に空洞ができると断熱材のように保温性が高まり、寒冷気候では生存に有利だったのではないか」というのだ。たしかにキツネ、クマ、シカなど野生動物でも、北方に生息する動物の毛の方が中心部に空洞のあるものが目立つ。

つまり、中国北部やシベリアの乾燥した寒冷気候を生き抜くのには、太くて断面が円形で直毛の方が適していたと考えられるのだ。こうして、世界では少数派である太くて真っすぐな毛髪が東アジアを中心に広がったというわけ。詳しい理由は完全に解明されていないが、ひとつの仮説になっているようだ。

このほか、毛髪の種類を決める遺伝子が歯や汗腺の形状にも影響を与えることから、それが生存に有利だったという説もある。

では、アジア人の祖先はどのようなルートで移住してきたのだろうか?