図5と表6は、日本国内の耳あかの乾型と湿型の勢力分布を示したものだ。
新川さんらと共同で県立長崎西高校が調査した都道府県別の乾型遺伝子出現率(対象1963人)をもとに作成した。最も高いのは京都、次いで岐阜、大分、愛媛、福井……。逆に最も低いのは岩手、次いで沖縄、広島、宮城、山梨……。
調査を見ると、「乾型は西日本で特に多い」というざっくりした傾向が浮かび上がる。詳しく言うと「乾型は近畿地方で圧倒的に多く、さらに四国北部、九州東部へとつながる臨海地域にも集中している」という。
これは何を意味するのか?
「渡来人が通った足跡のように見えませんか?」と新川さんは言う。「大陸から来た渡来人は中央権力があった近畿地域を目指して移り住んだ。そのルートに沿う形で、乾型遺伝子が多く残った」というのだ。

この仮説によれば「耳あかが湿型の人は縄文人、耳あかが乾型の人は弥生人(渡来人)が祖先」ということになる。何だか、太古の人との「きずな」を見せられたような気がして、歴史のロマンをかき立てられる。
実は、これとよく似た現象を以前、このコラムで書いたことがある。
2010年7月2日に掲載した「全国酒豪マップ」――。耳あかと同様、人が酒に強い(酒豪)か、弱い(下戸)かも各自の体質(遺伝子)で決まる。もともと人間は酒に強かったが、中国南部で酒に弱い遺伝子が突然変異で生まれ、周辺に広がったという話だ。
下戸の遺伝子は渡来人とともに日本に伝わり、酒が強い土着の縄文人との混血で混ざり合った。今では下戸と酒豪が混在しており、近畿、中部、瀬戸内、九州北部など渡来人が移り住んだルートに特に下戸が多い。
比べてみると、たしかに「全国酒豪マップ」との共通点は多い。
例外はあるが、乾型遺伝子の出現率が上位の都道府県は近畿、四国北部、九州東部など下戸が多い地域と重なり、一方の出現率が低い都道府県は東北、四国南部、九州西部など酒豪が多い地域と重なっている。