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北に北さん、東に東さん、南に南さん…「名字のミステリースポット」を歩く 編集委員 小林明

2011/1/4

名字研究家の間で有名な場所がある。

石川県能美市下開発町(しもかいはつまち)――。

実は、そこに住む人たちの名字は驚くべきことに、北に住んでいる人は「北さん」、東に住んでいる人は「東さん」、南に住んでいる人は「南さん」、西に住んでいる人は「西さん」という名字なのだそうだ。おまけに、集落の中央部に住む人は「中さん」という名字だという。

つまり、名字を聞けば、集落のどこに住んでいるかが直ちに分かるというわけ。

どうして、そうなったのだろうか? 

「これは実際に足を運び、確かめてみなければなるまい」。そう思い立ち、石川県能美市下開発町を訪ねることにした。

2010年12月下旬。羽田空港から石川県の小松空港に降り立った筆者は、タクシーで能美市下開発町に向かった。鉛色の空はあいにくみぞれ交じりの雨。日本海から吹き付ける寒風に思わず身をすくめる。

車窓の外を見ると、稲刈り後の水田が見渡す限り延々と広がっている。都会に比べたら空がとても大きい。この辺りは霊峰白山から流れる豊富な清流と肥よくな土に恵まれた北陸屈指の米所だ。勤勉な農民がコツコツと米作に精を出し、「加賀百万石」の繁栄を支えたことでも知られる。

30分ほどタクシーを走らせると、今回の目的地である下開発町が見えてきた。だだっ広い田んぼの中にポツンと島のように浮かんだ小集落である。総数は60世帯。5分もあれば、町の端から端まで歩けてしまえる大きさだ。

取材を開始する。まず集落の北西に位置する八幡神社から散策を始めてみた。しばらく歩くと、我が目を疑った。北卓、北謙二、北勝雄、北秀雄、北幸帰、北知慎、北重盛、北建一……。左手に続く北部ゾーンの表札は、なんと、「北さん」ばかりではないか!

石川県能美市下開発町(町中央部にある「中さん」ゾーンから西方の八幡神社をのぞむ)

続いて集落の東部に差し掛かると、右手のゾーンは東さんばかりになる。東孝治、東章、東潤一、東正芳、東文治、東良雄、東寛次……。これだけ「東さん」の表札が並ぶと壮観な眺めだ。

やがて通りを南下し、西に向かうと今度は「南さん」ゾーン。表札を見ると、南郁夫、南敏夫、南和麿、南茂樹、南清明、南康博、南俊宏……。なるほど、「南さん」が集中している。

さらに集落の中央部に入ると、今度は「中さん」ばかり。中庄一、中正章、中雄二、中昌之、中良一……。最後に出発地点の神社の周辺を少し歩き回ったところ、「西さん」という表札がパラパラと見えてきた。西一豊、西俊秀、西秀則……。

「うーん。見事と言うしかない」。この町では、紛れもなく、住んでいる場所に従って名字がはっきりと区別されているのだ(図1)。何だか「おとぎの世界」に足を踏み入れたような不思議な気持ちになってくる。

どうしてこうなったのだろうか?

取材を進めるうちに、興味深い歴史が隠されていることが分かってきた。

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