「最近のアイドルは大人数が目立つなあ」。電車の中でふと耳にしたサラリーマンの会話に探偵、松田章司が興味を持った。「グループ歌手が売れる理由が何かあるのかな」。章司は探偵志望の小学生、伊野辺詩音を連れ、調査に出かけた。
2人は、音楽CDの売り上げが日本有数の「タワーレコード新宿店」(東京・新宿)に向かった。新譜・話題曲のフロアに行くと「先月、売り場を1.5倍に広げたばかりです」と副店長の花野顕さん(36)が声をかけてきた。
数年前と様変わり
主役はアイドルグループ。人気絶頂の「AKB48」関連の売り上げは1年前の2倍になった。9人グループの「少女時代」など韓国ポップ(K―POP)のグループアイドルの販売額はなんと5倍だ。
CS放送などに音楽番組を流すミュージック・オン・ティーヴィ(東京・港)がまとめた今年上半期のヒット10曲のうち、9曲が大人数グループの歌。5人組の「嵐」やAKB48で上位3曲を占めた。浜崎あゆみや倖田來未など、1人で歌うアーティストが常連だった数年前とは様変わりだ。
「なぜ大勢だとヒットするの」と首をひねる詩音を連れ、章司は「嵐」のコンサートが開かれた東京ドームに向かった。そこで出会った都内の中学2年生6人組に聞くと、「メンバーそれぞれに個性があるところかな」と川口早紀さん。隣にいた高橋美咲さんは「だから自分に合う人が見つかるんですよ」と答えた。
「アイドルを売り出す側はどう考えているのかな」。AKB48のプロデューサー、秋元康さん(54)になぜ大人数にしたのかを聞くと「誰が売れるか、僕には分からないからです」と意外な答えが返ってきた。「ファンの声援で『この子はすごい』と気づかされることが多いのです」
法政大学教授の稲増龍夫さん(58)は「1人のスターではなく、多くの選択肢を用意してファンの好みに委ねるやり方です」と解説する。「好みが多様化し、昔のように人気を独占する国民的アイドルが生まれにくくなっているのです」