直腸がんのため、直腸を全部摘出し、念のためリンパ節もとるという手術を受けて12日間で退院しました。その後、実家でしばらく養生していましたが、思うように身体が動かないなか、なにかとイライラしがちでした。早く復帰して会社に行かなければと、気ばかり焦っていました。そして、一時的な措置とはいえ、人工肛門(ストーマ)となったことも私にとっては非常に辛いものでした。
ストーマとは、腹部から腸の途中を体外に出し、そこから排せつするというもの。もちろん、排せつはコントロールできません。専用の袋(パウチ)をシールでお腹に貼り付け、便がたまったらトイレに流します。
お風呂で身体を洗い終え、着替えている時にストーマから便が垂れ流れてきて、もう一度シャワーということもしばしばあり、思いどおりにならぬ体に情けなくなり、涙が出た時もありました。
私の場合、ストーマとパウチの接合部のかぶれもひどく、いつも痛みをこらえていた覚えがあります。きっと体形や肌に合わなかったのでしょう。通常3日ほどもつパウチを、ほぼ毎日替えました。
退院後約2週間で、職場復帰できました。当初、勤務時間は前後1時間ずつの短縮という配慮を頂き、業務内容も内勤での事務業務が中心、体力がついてきたころに、少しずつ本来の営業業務に戻っていくというスケジュールでした。
最初の壁は通勤と外回り。体力が戻ってきているとはいえ、術前に比べ10キロ近く痩せ、しかも腹部の傷口をかばいながらの電車通勤は、こたえました。出勤時間帯をずらし、満員電車を避けてはいましたが、イベント時やお客様との待ち合わせなど、こちらで調整できない場合もしばしば。傷口を荷物で押されたり、雑踏の中で周囲のペースについていけず息をきらしたりすることも多かったです。
また、パウチの便の排せつでも苦労しました。パウチ内がいっぱいになるまえにトイレで捨てるのですが、一度地方出張の際、訪問先のトイレでバランスを崩し、便を全てズボンにかけてしまったことがありました。女性の店員さんしかいない店舗で、血の気が引きましたが、とりあえずなんとかトイレを掃除し、ガニ股になりながら田舎の国道を、洋服店を探してとぼとぼ歩いた苦い記憶もあります。
そんな生活もあっという間に3カ月がたち、直腸切除後の大腸と肛門との接合部分も良好とのことで、人工肛門閉鎖手術のため再入院しました。「閉鎖すれば以前のように普通に排便できますが、便をためる直腸がないので頻繁にトイレに行くようになるでしょう」と事前に説明を受けました。でもストーマの苦労のせいか、「どうしても普通の生活がしたい」との思いはより強くなっていました。
今回の入院は、事前の業務引き継ぎも入院準備も慣れたもので、精神的には楽でした。手術も無事成功。しかし、術後数日で、「直腸がない」ということがどういうことかを身をもって知ることになりました。腸が便をどんどん押しだそうとするのに、その便をためる器官がないのです。しかも、昼夜わけ隔てない便意に促されてトイレに行っても、出てくるのは少量の便のみ。はたして、こんな状態で仕事に復帰できるのだろうかと、不安になりました。
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「患者は働く」は、病気やその後遺症と折り合いをつけながら働き続ける姿を紹介するコラムです。本人にとっての働く意味やその上での工夫、周囲の配慮などについて、直腸がん、糖尿病、子宮頸(けい)がん、悪性リンパ腫、リウマチの5人の筆者が毎週リレー形式でつづります。