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アート&レビュー
初めての俳句・短歌

小島ゆかりの発見の歌短歌一口講座 聖夜

2010/12/4

初めての俳句・短歌

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(おおつじ・たかひろ)1960年三重県生まれ。龍谷大大学院文学研究科修了。現代歌人協会会員。三重県立松阪高校教諭

今回の「耳を澄まして」には小島ゆかりの歌が登場しました。

小島ゆかりは昭和31年(1956年)愛知県生まれの現代歌人。現在、もっとも人気のある女性歌人かも知れません。健康的で前向きな彼女の姿勢は『希望』『ごく自然なる愛』といった歌集名にもよく現れています。

彼女の歌には、決して難しい言葉は出てきません。彼女の歌は、私たちが普段使っている言葉によって、私たちをハッと驚かせるような世界を切り開いてゆきます。

  ハイウェイの左右に街は見えながら時間はつねに真後ろへ過ぐ

高速道路を走ると、左右に聳えるビル街が後ろへ後ろへと走ってゆきます。その時、作者は風景だけではなく、「時間」も真後ろに過ぎ去ってゆくのだ、と感じたのです。街の風景という空間的なものを、時間に転換させて描き出した鮮やかな発見の歌だといえるでしょう。

  ぎんがみを手はたたみつつ霜の夜をぎんがみのこゑ小さくなりぬ

銀色の紙を使って折り紙をしているときの歌でしょうか。銀紙を畳んでゆくにしたがって、折り目をつけたときの紙の音が小さくなってゆく。それを「ぎんがみのこゑ小さくなりぬ」と表現したのでしょう。

「ぎんがみ」という言葉のリフレインも効いているし、銀紙の冷たい感じと「霜の夜」が実に上手にマッチしています。また、自分の手でありながら、まるで他人の手を見ているかのような「ぎんがみを手はたたみつつ」という表現も巧みです。小島の歌は分かりやすいのですが、そこには繊細なテクニックが駆使されているのです。

  夏みかんのなかに小さき祖母が居て涼しいからここへおいでと言へり

夏みかんを切ると、そのなかに小さな袋がはいっています。それはまるで小さな部屋のようです。その部屋のなかに、亡くなった作者の祖母がいて、作者に「ゆかりちゃん、涼しいからここへおいで」と囁いてくる……。そんな不思議な歌です。夏みかんを切った時のさわやな香りから、作者はこんな奇抜な着想を得たのかもしれません。

小島ゆかりの発見の歌は実に明快なのです。が、それでいて私たちを現実の世界からほんの少し飛翔させてくれる力があります。その力こそが、彼女の人気の秘密なのかもしれません。

(大辻 隆弘)

「初めての俳句・短歌」では、日本経済新聞土曜夕刊の連載「耳を澄まして あの歌この句」(社会面)に連動して、毎回、季節に合った写真に短歌や俳句を添えます。歌人の大辻隆弘さんと、俳人の高田正子さんが歌や句の背景、技法についてわかりやすく解説します。
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