幻のクエ釣り ロマン追う

関西の食通をうならせるクエ鍋の季節がやってきた。人々を魅了するのは食味ばかりではない。巨大な「幻の魚」にロマンを追う釣り人も多い。関西の産地である和歌山・日高町の漁師、生戸学さん(63)の漁に同行し、ノウハウの一端をみせてもらった。

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クエの一本釣り漁師の生戸学さん。道糸を垂らす指先に神経を集中させる(和歌山県美浜町沖)

クエはハタ科の魚で、関東ではモロコ、九州でアラと呼ばれる。上品な白身で、定番は鍋のほか、薄造り、天ぷらなど。胃袋など内臓は珍味だ。もっとも地元でクエ料理民宿の老舗「村崎荘」を営む村崎嘉珠子さんによると、40年前までは評価が低く、かまぼこの原料にしていたという。

「釣りの話をするときは両手を縛っておけ」。自慢話になりがちな釣り人をやゆするロシアのことわざだが、大物のクエは重さ40キロ、1.3メートルにもなり、両手で抱えられないほどだ。冬場に市場価格は1キロ当たり1万円の値が付く。

10月6日午前4時半、オリオン座がまたたくなか生戸さんの漁船に乗り込んだ。最初の仕事はエサとなるアオリイカ釣り。ポイントは港前。生きた小アジを仕掛けに刺し、イカに抱きつかせる。「いいときにはすぐに釣れるんだが……」。釣り始めて1時間。どうにか30センチ級2匹を釣り上げ、沖合20分のクエ釣り場へ急いだ。