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「1ミリ」も?ぶれなかった首相

2010/8/24 日本経済新聞 電子版

「1ミリたりともぶれていない」(7月8日、消費税について菅直人首相)――。政治家の発言には「1ミリ」という言葉がしばしば登場します。首相発言はぶれの幅を「ミリメートル」で表そうとしていると考えればそれほど違和感はありませんが、一方で長さの概念を超えた用法も増えています。
長さの概念を超えた「1ミリ」の用法が増えている(写真は記者会見する菅首相)

「1ミリたりとも新党をつくったり、(他党に)入るということはない」(2004年7月29日、福島瑞穂社民党党首)といった例は長さでは説明できません。政治の世界では古くからある表現のようで、1974年2月14日の衆院外務委員会の議事録には永末英一衆院議員(故人)の「われわれも武力による占領などは1ミリも許すべきではない」との発言があります。これら3発言はいずれも「1ミリも~ない」という構成が共通。否定詞と呼応し、「少しも(全く、絶対に)~ない」という強調表現になっていると分析できるでしょう。

 近年は否定を伴わない文脈でも見かけます。日本経済新聞の記事では政治家の発言ではないものの、今後制定される法律に関し「1ミリでも影響を与える可能性を考えると」(07年3月24日付朝刊社会面)、アニメ映画の製作に関し「スタッフは1ミリでも良くしようと」(09年12月6日付朝刊アート探究面)などの使用例があり、ともに「少しでも」というニュアンスで使われています。ただ、「1ミリ」にこうした意味を載せている国語辞典は今のところないようです。

 1ミリの1000分の1の「1ミクロン」の用例となると、最も有名なのは96年のテレビドラマ「ロングバケーション」第1話で木村拓哉さんが山口智子さんに言い放った「僕も年上には1ミクロンも興味ないですから」ではないでしょうか。ちなみに当時、ミクロンという単位は92年成立の改正計量法によってマイクロメートルに変更され、97年10月以降使われなくなることが決まっていました。でももしこのせりふが「1マイクロも」だったとしたら、語呂が悪いばかりか、視聴者にも伝わらなかったに違いありません。

(中川淳一)

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