2010/8/16

イチからわかる

メンツの問題も

2人は国際基督教大客員教授の岩井克人さん(63)にも聞きに行った。「そもそも通貨の発行には相応の経済的な利点があります」と岩井さんは指摘する。例えばその国の通貨が使える範囲が広がるほど、自国の製品を行き渡らせやすくなる。「他国にその権利を譲り渡して相手を潤すようなことはやりにくいでしょう。国のメンツも大きいですね」

「通貨発行の権利を手放すとなれば様々な抵抗が出てきます」と財務大臣を務めた衆院議員の藤井裕久さん(78)も話す。実はアジアで通貨を一緒にする構想がある。鳩山由紀夫前首相は前向きだったが、各国の状況があまりに違うため、藤井さんは自分が大臣の時には検討しなかった。

中東ではサウジアラビアなど6カ国が共通の通貨を2010年をめどに導入しようと計画していた。しかし通貨の発行や政策を仕切る組織の立地を巡って意見が対立。結局、導入は先送りになった。

明日香は事務所で報告書を書きながら独り言を言った。「相手と自分の状況をよく考えないと一緒になるのは難しいのね。結婚と似てるかも」(初田聡)

<ケイザイのりくつ>1国1通貨は近代の出来事

歴史上、巨大な帝国はいくつもあったが世界が共通の通貨でまとまったことは一度もない。それどころか「100年ほど前まで1つの国に発行元が違う複数の通貨が出回ることも珍しくなかった」と東大の黒田明伸教授は話す。19世紀の米国は複数の銀行が紙幣を出していた。

紙幣の研究機関カレンシー・リサーチによると日本は江戸時代に各藩などが独自のお札(藩札)を発行。代官所、旗本領でも独自のお札が出回っていた。円が日本の唯一の通貨となったのは明治維新後、日本銀行などができてから。1国1通貨は比較的新しい出来事といえる。

[日経プラスワン2010年8月14日付]

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