がん経験を社会へ発信し、未来を変えたい乳がん(5) 桜井なおみさん(43)

3月から始まった連載も5回目。いよいよ私の担当では最終回になりました。連載では、患者が直面する(1)身体的な痛み(2)心の痛み(3)社会的な痛み――という3つの壁のうち、特に(3)社会的な痛み、「がん罹患(りかん)と就労」について取り上げ、治療を続けながら働くことの難しさや、働き続けるためのコツ、必要とされる支援制度についてふれてきました。


オフィスにて

アメリカでは「Survivorship(サバイバーシップ)」「Survivor(サバイバー)」という言葉が今から25年ほど前に生まれました。これは、米国がん経験者連合(NCCS)が掲げたがん生存の概念で、「がんと診断された日からの人生をどう生きたか?」というものです。

また、サバイバーとは、患者本人だけではなく、家族や支援者など、がんの影響を受けるすべての人を表す総称です(最近は経験者の総称として使われることが多くなりました)。

このようにがん経験者や家族を孤立させないよう「社会全体で支える思想」が浸透してきています。

しかしながら日本では依然として、「がんは死んでしまう悲しい病気」として忌み嫌われています。いつまでこんな誤解が続くのでしょうか?

がんは昔と違って治る病気になってきました。でも治るまでには、まだまだ時間がかかります。また、治らない、治りにくいがんでも、自分らしく生きられる時間が、より長く持てるようになってきました。就労問題や経済問題(がん医療費)は、がん医療の進歩とともにクローズアップされてきた新しい課題です。

国民の約半数が、人生の中で一度はがんに罹患する時代です。「早期発見・早期治療」だけではなく、「がんになっても自分らしく生きられる社会のしくみ」をつくっていかなければ、この国は傾きます。「問題提起ではなく解決策が必要」なのです。

今、日本でも多くのがん経験者が立ち上がり始めました。

アルゼンチンで受講した乳がん患者会リーダー向け研修の修了書。世界各国から患者会リーダーが集まった

私は2009年12月から、この問題を解決するためにお世話になった職場を離れ、退路を断って、「キャンサー・ソリューションズ」という株式会社で、“がん経験を生かせる事業”を本格的に開始しました。例えば、医療系の調査やイベント運営・企画、講演などがあり、現在5人の職員が、がん経験を生かして生き生きと働いています。また、今年5月1日には、32人の仲間と「がんと一緒に働こう!―必携CSRハンドブック」(合同出版)という書籍を発刊しました。全国各地でシンポジウムを開きます(9月5日盛岡、11月28日名古屋)。

がん経験を社会へ発信しなければ、未来は変わりません。これからがんになる人たちが同じ問題で悩まないためにも、今、私たち経験者ができることはたくさんあります。

私のこの連載は終了しますが、私のキャンサー・ジャーニーはまだまだ続きます。この連載を読んでくださった「今をともに生きる」皆さんと、いつかお会いできることを楽しみにしています。

人との巡り合い。それは、私のキャンサーギフトです。どうもありがとうございました。

(桜井なおみさんの項は今回で終わります)

桜井なおみ(さくらい・なおみ) 1967年生まれ。設計事務所勤務時の2004年に乳がんが見つかり、手術。抗がん剤治療を経て翌年復帰するも、06年退職。社団法人勤務を経て、09年にがん患者の自立を支援する株式会社「キャンサー・ソリューションズ」を立ち上げる。会社までは20分、自転車通勤。

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「患者は働く」は、病気やその後遺症と折り合いをつけながら働き続ける姿を紹介するコラムです。本人にとっての働く意味やその上での工夫、周囲の配慮などについて、5人の筆者が毎週リレー形式でつづります。

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