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イチからわかる

サッカーのPK、なぜ入らない?

2010/7/26 日本経済新聞 電子版

「サッカーのワールドカップ(W杯)でペナルティーキック(PK)がよく失敗していたわ」。事務所に来た小学生の伊野辺詩音のつぶやきに探偵の松田章司が興味を示した。「一流プレーヤーなのになぜ決められないのかな。調べてみよう」
W杯準々決勝でパラグアイのPKを止めたスペインのカシリャス選手=ロイター

2人はサッカーに詳しい経済学者で東京大学教授の松井彰彦さん(47)を訪ねた。「PKの成功率はプロ選手でおよそ8割です。けり手とキーパー双方の戦略を研究する『ゲーム理論』で詳しく分析できます」

守る側がゴール付近で反則すると得点の機会を奪ったと判断されて攻撃側にPKが与えられる。キーパーも必死に止めようとするが、ける場所がゴールから11メートルと近いのでPKの成功率は高い。キーパーはボールの方向を予測し、相手がけると同時に動かないと止めるのはまず無理だ。

左か右かで裏読み

「左右どっちを狙うと得点しやすいのかな」。詩音の疑問に、松井さんは「真剣勝負を何度もやっていくうちにどちらの方向も得点の確率が同じになります」と説明してくれた。

一般に右利きの選手は左方向を狙うのがうまく、成功率も高いはず。しかしける方向が左に偏りすぎると、キーパーはそちらに備える。そこでけり手は裏をかいて右を狙おうとする。キーパーもそれを読んで……と心理戦を繰り広げる。

何度もけるうちに、ける(キーパーは守る)方向の選び方は、左右が同じ成功率になるような割合に落ち着くのだ。このときけり手もキーパーも最善手を打っており、双方が意識せずとも自然とその状態(均衡)に収まることを明らかにしたのがゲーム理論なのだ。

「実際の試合も理論通りになっています」。松井さんは1995~2000年の欧州主要リーグの試合を調べた米ブラウン大学の研究を教えてくれた。808回のPKのうち右にけったのが4割、左が6割だったが、成功率は右が81%、左は83%とほぼ同じだった。

成功率6割に低下

「今回のW杯はどうだったの」。2人がスポーツデータを分析するデータスタジアム(東京・世田谷)を訪ねると、同社の森本美行さん(49)が「今大会の成功率は60%にとどまりました」と教えてくれた。PK戦を除くと全64試合で15回のPKがあり、うち得点が決まったのは9回だった。

国際サッカー連盟(FIFA)によると06年ドイツ大会までの全18大会でPKが190回あり得点できたのは154回。成功率は81%と高く、南アフリカ大会の低さが目立つ。

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