意外と簡単「ネット生中継」 あなたもキャスターに
事業仕分けや参院選候補者の公開討論会の中継で認知度が上がったインターネットを使った生中継。政治以外にも、音楽や著名人の対談、シンポジウムなど幅広い中継がある。見るだけでなく、パソコンとウェブカメラを使えば、中継も意外に簡単だ。同じ趣味を持つ人と交流したり、関心あるテーマの知識を掘り下げたりするのに活用したい。
「皆さん、どの曲を歌ってほしいですか。つぶやいてくださいね」。歌手の広瀬香美さんがネット生中継「Friday Kohmi」の中で、スタジオから視聴者に対して呼びかけた。配信サイトの「ユーストリーム」を利用し、自らの音楽や人形アニメなどを毎週金曜日夜に紹介している。
ミニブログ「ツイッター」のつぶやきを中継中に読み上げるなど視聴者との交流に積極的だ。広瀬さんは「視聴者が参加することで(テレビやライブとは)違うエンターテインメントを提供できる」と話す。
スタジオを見学していたファンの松下美津代さん(33)は「5月の初回から毎週欠かさず見ている。好きなアーティストの中継にツイッターで参加できるのがうれしい」と話す。
曲の感想を書き込み
ユーストリームは携帯電話などのカメラで撮影した動画をネットを通じて配信できるサイト。6月の国内視聴者数は月間約168万人。中継は広瀬さんのようにアーティスト本人が企画するものだけではない。プロでなくても簡単な機材で中継できるため、熱心なファンがいる音楽ライブ、政治討論など幅広い。シンポジウムや講演会の中継も増えてきた。
東京都内の会社員、竹沢百合さん(27)はユーストリームでDJの音楽中継を週2回楽しむのが最近の習慣だ。サイト画面の横には、同じ中継を同時に見ている人がツイッターに書き込んだつぶやきが連動して流れる。「テレビ番組では取り上げない音楽でも、好きな人みんなで盛り上がれる」と笑顔を見せる。「めっちゃ興奮する」と曲の感想を書き込むこともあるという。
同じく中継サービス「ニコニコ生放送」を手がけるのは携帯コンテンツ配信のドワンゴ。動画配信サイト「ニコニコ動画」の中で2007年12月に始めた。同社が手がける公式の生中継だけで毎月100以上。内容も政治討論からプロ野球「楽天イーグルス」の試合まで多彩だ。
「USTREAM 世界を変えるネット生中継」の著者で、デジタルハリウッド大学大学院専任教授の川井拓也さんは「中継が面白いのは、見知らぬ同好の士と動画を介してコミュニケーションできる点だ」と指摘する。「積極的にツイッターの会話に参加すれば、時間と感動を中継の送り手と共有できる」(USTREAM Asiaの中川具隆社長)。初めての人でも発言することで中継にのめり込んでいくという。
番組探しはそれぞれのサイトがトップページに掲載したおすすめのほか、他社が独自につくった番組表も役に立つ。サイト制作会社ピクルス(東京・新宿)の「Live Jam番組表」は、ツイッターで話題の生中継を集めた。発言数を基にランキング形式で中継を紹介している。
著作権などに配慮を
見るのに慣れたら、中継の送り手になるのも面白い。コピーライターの森田哲生さんは生中継に開眼した一人。見るだけだったが、自宅のノートパソコンとウェブカメラでコピーライター講座や料理風景を中継している。「生中継は自分を知ってもらうチャンスだ」と語る。
中継するときは著作権や肖像権への配慮が欠かせない。生中継は法律ではテレビなどと同じ「公衆送信」にあたる。著作権で保護された作品の朗読などは「著作権法に違反する可能性がある」(著作権に詳しい福井健策弁護士)。法律で利用できるのは著作権者の許可があるか、引用と認められるときだ。送り手になるなら肖像権など個人のプライバシーにも配慮したい。
(電子整理部 岩本貴子)
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