読みたい本、図書館になぜない?

「借りたかった村上春樹の本が全然ありません。なぜ図書館にないのか調べてもらえませんか」。「読書好きや夏休みに読みたい人には困った話だわ」。近所の中学生の依頼を受け、探偵の深津明日香と小学生の国本玄輝は町に飛び出した。
4月から図書館の運営は書店の有隣堂が担当(横浜市青葉区の横浜市山内図書館)

まず現場の話を聞こうということで2人は横浜市中央図書館へ。

予約待ち1万7000人

「村上春樹などの新刊本がないって聞いたんですが本当ですか。購入していないんですか」。明日香の質問に、応対してくれた企画運営課長の大本幹也さん(53)は「そんなことはありません。ただ、『1Q84』などの話題作は人気が高く全部貸し出し中。予約上位ベスト10だけでも1万7千人以上の人が待っているのでなかなか図書館に本が返ってこないのです」

「それならもっと買えばいいのに」。玄輝の問いに大本さんは「それが難しいのです」と言って2人に1枚の表を差し出した。「厳しい財政事情の影響でこの10年で資料費は約半分に減ってしまいました」

同館では購入冊数を確保するため、値の張る学術書の購入を見合わせたり、同じ本の複数購入を減らしたりしてやりくりしているが、貸し出し冊数も多く、とても追いつかないという。

2人が週末に訪ねた岐阜県図書館でも事情は同じ。2008年度に1億円だった資料購入費が今年度は2900万円に激減した。

「この3年間は県の借金の返済ピークにあたり我慢の時期。図書館予算も例外扱いできないんです」。古田肇知事(62)は苦しい胸の内を明かしてくれた。

日本図書館協会のデータでも1館当たりの資料購入費が減っていた。「地方の財政は厳しいというから図書館の本代にしわ寄せが来ているのね」「でもそれなら財政事情がよくなれば、問題もおのずと解決するのでは」。2人が帰りの新幹線の中で話していると「それはどうでしょう」の声。関西学院大学教授の小西砂千夫さん(49)だった。

首長の意向に左右

図書館など地方の予算には国から地方へまとめて渡される交付税というお金が使われる。しかし生活保護費のように法令で用途や金額まで決まっているわけではない。そのため数ある支出の中で図書館関連は後回しにされ、削られやすいという。「増やすも減らすも知事や市長などの考え方次第の面が強いのです」と小西さん。

「予算も原因かもしれませんが、読みたい本が漠然としかイメージできない人の場合、それが見つからないという悩みも別にあるのでは」。前の席に座っていた男性が突然話しかけてきた。名刺をみると、愛知県田原市中央図書館長の豊田高広さん(51)だった。

「新刊や話題書を読みたい人もいるでしょうが、自分の探している本や読みたい一冊が分からない人も大勢います。そこでレファレンスが重要になるのです」

レファレンスとは専門資格を持った司書と呼ばれる職員が利用者の関心に沿って本や資料を探してくれるサービスのこと。自分の読みたい本が決まっていない人にも、膨大な蔵書の中からピッタリの一冊を見つけ出してくれる。

ところが最近、常勤の司書の数が減り、「私たちのような司書の仕事や機能にも弱体化の兆しがうかがえ、心配しています」と豊田さん。人手不足の中、本の貸し出し、他館への配送業務などに追われ、そこまで手が回らないとこぼす司書も増えているという。

「なるほど。報告通りなら当面状況の改善は見込めそうにないな」。2人の話に所長がため息をつくと「悲観しすぎは禁物です。新しい取り組みが始まっている図書館も少なくありません」との声。たまたま事務所に遊びに来ていた三菱総合研究所主任研究員の西松照生さん(35)だった。

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