さて、この“勢力分布図”からどんなことが読み取れるのだろうか?

原田さんはこんな仮説を披露している。「もともと日本人は酒が強い酒豪ばかりだったが、中国大陸からやってきた渡来人によって酒に弱い遺伝子が日本に持ち込まれた」というのだ。

おちょこ1杯の酒を飲んだだけでもすぐに顔が真っ赤になるのは、主に黄色人種によく見られる現象とされ「オリエンタル・フラッシング」と呼ばれる。白人や黒人にはあまり見られない現象らしい。つまり下戸は圧倒的に黄色人種に多いようだ。

原田さんが人種ごとに酒豪型遺伝子の出現率を調べたところ、白人(ドイツ、スウェーデン、フィンランドなど)、黒人(スーダン、ケニアなど)ともにほぼ100%だったが、黄色人種は明らかに低く、特に日本56.4%、中国59.0%、韓国71.6%など東アジア地域での低さが目立った。(ちなみにタイは90.1%、マレーシアは94.2%、フィリピンは87.3%だった)。

こうした研究の成果をもとに、原田さんは「人間は本来、酒に強い酒豪ばかりだったが、アフリカ起源の現人類が黒人、白人、黄色人へと分岐するプロセスを経て、今から3万~2万5千年ほど前に中国南部あたりで突然、遺伝子が変異し、酒に弱い下戸が生まれた」と推理する。それが渡来人として日本に渡り、混血を重ねながら国内に広がったというのだ。このプロセスをまとめたのが〈図(3)〉である。

日本に渡った渡来人は中央権力のあった近畿地方を目指しながら、九州北部から瀬戸内、近畿、中部などに多く移り住んだ。このため「移動ルート」にあたる地域には下戸が増えた。逆にこの「移動ルート」から離れている北海道、東北、九州南部、四国南部には、結果として下戸の遺伝子があまり入り込まず、もともと酒に強い酒豪が数多く残ったというわけ(〈図(4)〉)。

「東北や九州には酒豪が多い」。これまで何となく抱いていたイメージが、科学的に“証明”された格好だ。