スマホ利用に男女差 検索好きの女性、男性は仕事中心
東京都に住む会社員、紺野彩香さん(32、仮名)の一日はスマートフォン(スマホ)とともに始まる。朝起きるとすかさず、メールとツイッターの受信履歴をチェック。数百件に及ぶメッセージを指でバシバシとめくり上げ、ものすごい速さで読んでいく。この毎朝の大仕事は、お化粧の最中も続く。彩香さんは、博報堂DYメディアパートナーズによるスマホの利用実態調査に協力、その様子はカメラにも記録された。
通勤で駅まで歩くときは、スマホでお気に入りの音楽を聴きながら、今日の麻布十番の天気をツイッターで発信。「これを見た誰かの役に立てば」と言う。
昼休みには気になるニュースをスマホでチェック。仕事が終わると、ミクシィなどのSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を見たり書き込んだり。帰宅時には近くに東京タワーが見える。「イベントなどで色が変わるとスマホ内蔵のカメラで撮っておく」。
お風呂でもスマホ
お風呂の最中は透明なビニール袋(ジッパー付き保存袋)に入れ、防水対策をしてスマホを使う。「情報の早いネットが好きで、いつでも触れていたいから」という。
スマートフォンといえば、従来は最先端のガジェット(道具)を好む男性の利用がほとんどだったが、今年に入って女性の比率が急速に高まっている。最も人気のあるiPhone(アイフォーン)を販売するソフトバンクモバイルでは「新規ユーザーに占める女性の割合が5割を超えた」(孫正義社長)。最大手のNTTドコモも新規の3~4割が女性になってきた。
冒頭で紹介した彩香さんはかなりのヘビーユーザーだが、スマホの女性ユーザーには似たような傾向がみられる。2011年の2月と4月にスマホの利用実態を調べた博報堂DYグループによると「女性ではメールや通話、ツイッター、SNSなどコミュニケーションの道具としてスマホを使う人の割合が、男性より10ポイント以上高い」(藤井哲尚プロデューサー)という(図A)。
電車の中でスマホを使っている女性が、ものすごい勢いで画面をたたいている光景を最近よく見かける。何をやっているのか不思議だったが、どうやら大量のツイッターやメールの内容をスクロールしていたようだ。「いつも人とつながっている感じが好き」というのが、のめり込む理由になっているのだ。
アプリ起動回数、女性は男性の1.4倍
ソフト開発会社のミログ(東京・大田)が世界規模で実施した調査では、「スマホを使う男性より女性の方が、アプリを起動する回数が1.4倍多い」という結果が出た。起動したアプリのベスト3は、ブラウザーと電話、電話帳だ(図B)。ネットで何かを調べたり、電話をかけたりする機会は女性の方が多いということになるが、それは何のためなのか。
博報堂が調べたスマホ利用者の行動変化に関する男女差の統計をみると「分からないことがあったらすぐ検索する」「屋外で検索しながら行動を決める」としたのは、女性の方が1割弱も多い(図C)。このようにスマホを使って即座に問題を解決しようと行動するのは女性の方が多く、それがアプリの起動を増やしているようだ。
スマホではブラウザーのほかにも、使い勝手のよいアプリを使って情報を調べることが多い。女性の関心が高い無料アプリの分野は健康、医療、美容、料理など。「出先でおいしいランチの店を調べたりしているのではないか」(博報堂DYグループの入江謙太プロデューサー)という。
"写真好き"も女性の特徴
カメラ機能の品質へのこだわりが強く、スマホで写真を撮ったり見たりする機会が多いのも女性の特徴だ。友人との交流や子どもの様子、料理の盛り付けなどを頻繁に撮り、ブログなどにアップするといった使い方が多い。
スマホといえば、地図の機能が格段に使いやすくなった。位置情報の機能を使って現在位置の地図を即座に表示し、目的地までのナビゲーションを行う機能もある。ミリオンセラーとなった「話を聞かない男、地図が読めない女」では、脳の空間認識の違いにより、進行方向と地図の向きを一致させないと、地図の情報を読み取りにくい女性が多いとされていたが、スマホの地図は使われているのだろうか。
地図好きなのは男性
博報堂の調査によると、男性の半分以上が地図機能を活用しているのに対して、女性は4割にとどまっていた。「やはり地図そのものへのアレルギーがあるのではないか」(広報室の牧志穂さん)という声もあるが、スマホには進行方向と地図の向きを一致させるコンパス機能が備わっている。今後こうした機能を使いこなす女性が増えれば、地図活用の男女差をスマホが解消していくのかもしれない。
地図に加えて男性が好むのは、スマホをビジネスに活用することだ。ニュースを読んだりスケジュール管理に使ったりする割合や、仕事の最中と合間に使う割合は、男性の方が高い。また使っている無料アプリでも、ビジネス系やお金の運用、ニュースに関連するものが女性より好まれている(図D)。
男女によるスマホ活用の違いを一言でまとめると、男性が自己啓発に熱心なのに対して、女性は生活や交流をより楽しむための使い方が中心となっているといえる。スマホの利用は、新しいもの好きの男性に始まって、流行に敏感な女性が続いた。一連のデータはこうした女性の傾向が色濃く反映された調査結果とみることもできる。
最近は加えて「まわりのみんなが使い出したから」といった一般層の利用が増えてきている。今後、利用者層が広がっていくと、スマホの使い方の男女差も変わっていくことだろう。
(生活情報部 稲川哲浩)
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