ライフコラム

ことばオンライン

冷たくないけど「冷や酒」という不思議

2011/7/26

ある居酒屋で以前、「日本酒の冷たいのを下さい」と注文したところ、「常温ですか冷酒(れいしゅ)ですか」と確認されました。日本酒の「冷たいの」は、「冷や(酒)」と「冷酒」の2種類あるからです。どう違うのでしょうか。
生貯蔵酒は冷やして飲むタイプ

「冷や酒」と「冷酒」はどちらも表記では冷たいお酒のようですが、冷と酒の間に「や」が入るか入らないかで温度に大きな差が出ます。

「冷や」は「冷や酒」の略で、「燗をしない酒」(明鏡国語辞典第2版)。つまり温度は常温で、「冷や」といっても実は冷たくない酒です。

「冷酒」は「(1)燗をしていない日本酒(2)燗をしないで、または冷やして飲むようにつくった日本酒。冷用酒」(同辞典)とあります。現状、居酒屋で「冷酒」と言えば、冷やした酒を指すのがほとんどです。

「日本の酒文化総合辞典」(柏書房)の「冷や酒」の項目では「ヒヤザケは『や』を送るようにしたい。さもないとレイシュと誤読されるおそれがある」などと記しています。そのこころは、「冷や酒」は常温の日本酒である、と強調する意図でしょう。

東京都台東区の老舗居酒屋「丸千葉」で確かめたところ、「『冷や』と注文されれば常温の日本酒を出すし、冷酒と言われれば冷蔵庫で冷やした酒を出す」と言っていました。ただ両者は似ているため、「常温が飲みたいとき、間違って冷酒が来たらいやなので常温と言う」(丸千葉のお客さん)という気持ちも、同じ酒飲みとしてよく分かります。

もともと日本酒は燗か常温で飲むのが普通のことでした(冷蔵庫のない時代は当たり前ですが)。よって燗をしないのが「冷や」だったわけです。1980年代、「ワインのような」と評されることも多い「吟醸酒」ブームが起こり、冷蔵庫で日本酒を冷やすことが普及してきました。常温、お燗という温度のバリエーションに、冷蔵庫で冷やす飲み方(つまり冷酒)が大衆的になったわけです。

ちなみに日本の酒文化総合辞典には「冷やし酒」という項目もあり、意味は「いったん人肌程度に燗をしてから、とっくりごと冷水か氷で冷却した酒」で、「風味が締まる」と記されています。冷酒のひとつのバリエーションですね。

冷酒にも興味深い温度表現があります。雪冷え(5度)、花冷え(10度)、涼冷え(15度)。こんなことを知って飲むと、また格別かもしれません。

(山田伸哉)

ライフコラム 新着記事

ALL CHANNEL