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セブン―イレブン・ジャパンの井阪隆一社長(54)は1998年、商品本部のシニアマーチャンダイザー(SMD)に就いた
目標品質を定め、商品開発に取り組んだ(中央が本人、東京都港区)

目標品質を定め、商品開発に取り組んだ(中央が本人、東京都港区)

月曜から金曜の昼食時、新商品発売の最終判断を下す「役員試食」が開かれます。当時は、東京・芝公園にあった旧本社9階の会議室が会場。鈴木敏文会長をはじめ幹部に新商品をプレゼンテーションし、批評を受けるのです。SMDはひとつの商品カテゴリーに責任を持つ立場。毎日がまな板の上のコイです。

鈴木会長は一切妥協がありません。試食して担当者を厳しく叱責し、その間は他の役員はしーんと静まりかえります。会長が退席した後に「いや、おいしかったよ」と慰められることもありましたが「会長の前で言ってくださいよ」という気持ちでした。

99年1月、「冷やし中華事件」が起きる。

試作品を一口食べた鈴木会長が「とんでもない」と激怒しました。何度改良してもOKが出ず、役員試食で11連敗です。夏に人気の冷やし中華を販売できなければ加盟店のクレームも必至です。会長に訴えても「いいじゃないか。まずいものを出すより」とけんもほろろ。そこで会長が一番おいしいと思う冷やし中華の店を聞き出し、麺やつゆをもらって帰りました。

名店の麺を前に、ふと思いつきました。例えば縦軸に硬さ、横軸に弾力を取って数値化できないか。協力メーカーから「計測できる機械がある」と聞き、測ってみると名店はグラフの右上、我々は左下。全く違ったのです。

味の「見える化」が開発手法を変えた。

粉や水、卵といった素材の配合、ゆで方を見直し、名店の数値に近づけました。「今までとは違う」と自信を持って役員試食に臨み、グラフとともに説明しました。「これならいい」。好感触を引き出し、ギリギリで4月の発売に間に合いました。

「これか」と道を見つけた思いでした。それまでの商品開発は担当者の勘とアイデア頼み。そうではなく目標とする品質を設定し、定量的に分析すれば、開発に携わる多くのプレーヤーに理解してもらえる。この開発手法はその後、看板商品となる「セブンプレミアム」などにも引き継がれていきます。

リーダーに必要な資質をたたき込まれた。

役員試食を通らず、チャーハンが1年8カ月も店頭から消えたこともあります。でもそこからアイデアが生まれる。週1回、和洋中の料理専門家を招く勉強会を始めました。開発チーム数十人でプロの技を学び、180度の高温でごはんをいためる大型鍋などを考案していったのです。

昨日の延長線上のものづくりはしない。それを実現するには、経営陣はもちろん、現場のリーダーが高い志を持ち、具体的なゴールをチームに示さなければなりません。今は試食で役員席に座る立場として、それを伝えていきたいと思います。

<あのころ>
 1998年に伊藤忠商事がファミリーマートの、2001年に三菱商事がローソンの筆頭株主になった。もともとの親会社だった西友、ダイエーの経営不振が原因で、業界の大きな転機となった。コンビニ2社は商品調達や物流、海外進出に商社の力を使い、セブンイレブンと競っていく。

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