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入社2年目、当時主査だった鈴村喜久男氏と出会う。

ある日、鈴村さんが元町工場(豊田市)のR型エンジンラインの視察に来ることになりました。私が相手をすることになったのですが、向こうは厳しい指導で知られた方。案の定、鈴村さんはラインを見るなり「なんだこんなに長くて。たわけが」と怒り心頭です。

現場を回る鈴村氏(右)

現場を回る鈴村氏(右)

こちらも「私のせいではない。あなたが引いたラインでしょう」と食い下がると相手は激怒。「ひよっこが何言うか。来い」と私を5キロメートル先の上郷工場(同)まで引っ張っていきました。

そこでは新しいエンジンラインが引かれていて、鈴村さんがそれぞれの構成などを説明してくれました。確かに言っていることは理にかなっている。こちらも悔しいので意地になって3日で徹底的に直しました。

ところが、褒めてもらおうと思って鈴村さんを待っていても一向に見に来ないんです。「なんだあのクソオヤジ。もうあいつのいうことは二度と聞かん」。そう思っていたら、2~3日後に2年上の先輩が私のところにやってきました。「鈴村さんから怒られて、元町の林に聞いてこいと言われた」とのこと。ああ、あの人はちゃんと見てくれている。鈴村さんへの認識が百八十度変わりました。

それを機に"鈴村案件"が次々と舞い込んできた。

入社5年目の時、元町工場で乗用車「コロナ」の組み立てプロジェクトがあり私を含めた各工場の担当員に招集がかかりました。行ってみると、原因は分かりませんがコンベヤーの乗り移り部で頻繁に止まる。鈴村さんが床にチョークで丸を書き「林はここに立って見ておけ」と言うので半日ほどじっと見ていました。

昼になり鈴村さんから「どうだ」と聞かれたので「分かりません」と答えたらもう大変です。「お前の目は節穴か。同じ節穴でもおまえには給料がつく。節穴の開いた板を拾ってきて代われ」とすごいけんまく。改めて設備を観察し夕方に「こういうことですか」と聞くと「分かっているならなぜやらない」とまた怒られました。

晩のうちに直せと言うので、設備の電源を落とし回路変更している間、生産を止めないよう私が手押しでコンベヤーの乗り移りを補助しました。深夜2時ごろでしょうか、保全の人が来て言うんです。「仮眠室で寝てこい。あとはこちらでやっておくから心配するな」。普段は無愛想ですが、本気でやれば現場は助けてくれるということを学んだ瞬間でした。

後々よく大野耐一さんも「時間がなければ知恵が出るわな」とおっしゃられていました。鈴村さんも同じことを考えていたのでしょう。当時は気が気ではありませんでしたが貴重な勉強をさせてもらいました。

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