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現場では誰も簡単には助けてくれない。

このままでは仕事にありつけないと思い、足しげく現場に出て職長らと世間話をして人間関係をつくることから始めました。そのうちに「おまえ工学部か。クランクの油穴のドリルの寿命がどうも短い。何とかしろ」と声がかかります。ひとまずドリルの研磨をよく見てみるとこれがばらついている。それでは、と工場内の研磨部隊に相談にいったところ「理屈が分かるなら自分で研いでみろ」と相手にされません。

1960年前後の元町工場(愛知県豊田市)

1960年前後の元町工場(愛知県豊田市)

仕方がないのであの手この手でいじってみたら今度は「機械を壊す気か」と怒られる。さすがに本当に壊されると思ったのか、相手が代わってやると言い出しました。こちらも慣れるまでやらせろと押し問答。そんなことを繰り返しているうちに周りの態度が軟化してきました。どうやら「面白い奴が入ってきた」と思ってもらえたようです。

何をするにも自分でやるしかない。測定も自分、データの整理も自分、場合によっては機械の分解修理にも参加させられました。おかげで考える癖が身につきました。ばかにされたくないですから自分の専門外の話だとそれぞれの専門書を読み漁り、社内のいろんな人にかけあって自分の足で情報を取ろうとしたので別の部署とも人間関係ができてきました。

現地現物、自分で確認しないと、ものごとの本質は分からないということを最初のうちからたたき込まれました。今はインターネットですぐ情報が取れますが、それも善しあしですね。

厳しい中にはやさしさもあった。

2年目の時、エンジンを構成するシリンダーブロックに品番を打刻するための設備能力が足りないというので縦型フライスを導入しました。すると現場から精度が出ない、使いものにならん、すぐ来いとの呼び出しがありました。その日は約束があってワイシャツに着替えて帰ろうとしていたのですが、工長が「よく見ろ」と怒っているという。工長はたたき上げの職人。現場の神様みたいなものですから断れません。

現場に戻って機械をのぞいていたら、工長が油まみれの手でシャツごと私の首をつかみ「そんなとこから見えるか」と奥までぐいっと。そこまでやられるとこっちももうやけくそですよ。機械油で服がどろどろになるまでやって最後はしっかり直しました。

1カ月ほどした地域のお祭りの日、その時の工長が現場の部下たちを家に招いてくれました。帰りがけに奥さんがワイシャツとネクタイを持ってきてくれてこう言うんです。「主人が駄目にしたと気にしていたので用意しておきました」。これにはぐっときました。現場たたき上げの人は確かに怖い。でもハートがあるんですよ。

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