正しく言える?誤りがちな日本語表現
とかく日本語の表現は難しい。大人でも日ごろ間違った言い方をしていたり、漢字を読み違えていたりすることが少なくない。そこで、間違えやすい表現の解説書などをもとに二者択一の問題を作り、インターネット上で幅広い世代の男女に解答してもらったところ、正解が30%に満たない表現がたくさんあった。
正答率高いのは今どきの若者
慣用表現には「声をあらげる」「はす(斜)に構える」など、本来の使い方と異なる言い回しがそのまま広まり、定着し始めたものもある。そうは言っても仕事など大事な場面で恥をかいていることもあり得る。しっかり、本来の使い方はおさえておこう。
意外に感じるかもしれないが、調査の全問題合計の正答率が最も高かったのは20~30代だ。就職などのため、試験や面接に備えて懸命に学んだ人が多いようだ。一方、一番間違いが目立ったのは50~60代。「今どきの若者は……」などとは、とても言えない結果になった。家族や友人と過ごすことが多いこの時期、ランキングを参考に互いをチェックして、楽しく正しい表現を身につけよう。
<慣用句 似てるけど違う…>
「間が持てない」は、時間をもてあましてどうしたらよいかわからない、あるいは、会話などをうまくつなぐことができないという意味。ほとんどの辞書に「間が持てない」と載っているが、一部に「間が持たない」を載せる辞書も出てきた。20~30代の正答率は10%程度。若い人ほど本来間違いの「間が持たない」を使っていた。
正解 間が持てない
「すきを突かれて失敗させられる」という意味。足はすくえるが、足元はすくえない。ほかに「足元を見る」(相手の弱みにつけこむ)という慣用表現があり、混同しやすいので注意。正答率は最も高い20代が約18%、最低は40代で11%だった。
正解 足をすくわれる
漢字で書くと「荒らげる」。読み間違えて「あらげる」と言う人が多い。正答率は60代の約26%が最高。20代は22%と最低だった。若い世代ほど「あらげる」派が目立つようだ。
正解 声をあららげる
采配は柄に紙などの房を付けた道具。武将が戦場での指揮に使った。振れば全軍に指図できる。大きく振るっては部下が混乱する。
正解 采配を振る
「種を蒔(ま)いたが芽が出ないので蒔き直す」から生まれた言葉。劣勢から反撃に転ずる「巻き返し」と混同しやすい。
正解 新規蒔き直し
「しかつめらしい」は「まじめくさって堅苦しい感じがする」などの意味。「しかめっ面」とは全く異なる。
正解 しかつめらしい
「心頭」は心の中のこと。怒りが心の底からこみあげる状態を表す。怒りのボルテージが高まることではない。
正解 怒り心頭に発する
堂々として揺るぎない状態をいう。ほぼ同じ意味の表現「押すに押されぬ」と混同して誤りやすい。
正解 押しも押されもせぬ
夢にうなされても熱にはうなされない。「熱に浮かされる」は高熱でうわ言をいう、他事を忘れ夢中になる意味。
正解 熱に浮かされる
目が利く、鼻が利くとはいうが、目鼻が利くは誤り。「目端が利く」は機転がきくという意味。混同に注意。
正解 目端が利く
<惜しい!! その読み方>
「一世一代」とは一生に一度だけあること。役者が引退するときに仕納めとして演じる晴れ舞台のことなどを言い、「いっせ」が正しい読み方だ。正答率は60代の約31%が最高。歌舞伎などに触れる機会が多かったためかもしれない。20~30代の正解者は5人に1人もいなかった。
正解 いっせ一代
「綺羅(きら)」は美しい衣服のこと。「綺羅星(ほし)のごとく」は綺羅が夜空にまたたく星のようにたくさんある意味になる。「きら星」という星ではない。20代は約34%が正解。一方、50代は26%、60代は24%にとどまった。
正解 きらほしのごとく
「上意」は上の者の意思や命令。「下達」(かたつ)は下に伝えて意思疎通をはかること。20代の約39%、30代で40%が正解した。50代は25%、60代は19%。うっかり「上意げたつ」などと話せば、若手の戸惑いは大きそう。
正解 上意かたつ
「素読」は文章の中身を気にせずに音読すること。時代劇で子供が「子、のたまわく」と読む場面がそれだ。正答率は20代が最も高く、50%に達した。
正解 そどく
「十指に余る」は10本の指で数えきれないこと。「十進法」「十戒」「十傑」「十返舎一九」も「じっ」と読むのが正しい。
正解 じっしに余る
「舌鼓を打つ」はおいしさに舌を鳴らすという意味。「したつづみ」が正しいが「したづつみ」も広がりつつある。
正解 したつづみを打つ
「斜に構える」は剣道で刀を斜めに構えること。転じて物事にずれた対応の仕方をすることを言う。「しゃ」と読む。
正解 しゃに構える
「代替わり」とはいうが、代替は「だいがえ」と読まない。ただ、一部の会社や業界では「だいがえ」が主流のことも。
正解 だいたい案
「あり得る」の読みは「ありうる」が正解。とはいえ「ありえる」と読む人も増えており、将来は主流になるかも。
正解 ありうる
「年俸」の「俸」を、「棒」と書き間違える人がいる。そのためか「ねんぼう」と読み違える人は少なくない。
正解 ねんぽう
<金田一秀穂・杏林大教授に聞く> 時代で変化するもの
大人でも正答率のかなり低い結果。自分で試してショックを受けた人もいるだろう。日本語表現に詳しい杏林大学教授の金田一秀穂さんは「本当に正しく使える人など、そんなにいない。大事なのは相手と理解し合うことなのだから、あまり萎縮しないで話せばいい」と助言する。
金田一さんによれば、本来の言い方と違っていても、完全に間違いというわけではない。「間が持てない」と「間が持たない」の違いなどは、「揺れのレベル」とみることもできるという。
日本語は時代とともに揺れ動き、変化している。例えば「丁字路」は甲乙丙丁の「丁」の字なので「てい」と読む。これを若い世代はアルファベットの「T」と勘違いして「ティー」と読むことが多いが、「それが間違いとは言えない」と金田一さんは話す。
ただし、本来の意味と正反対の意味だと誤解して慣用表現を使うことがある。例えば「気がおけない」(遠慮しなくてよい)は、「遠慮しなければならない」と思い込んで使う人が多い。誤解されかねないのでご用心を。
◇ ◇ ◇
表の見方 それぞれ冒頭に誤った表現や読み方を挙げた。数字は正答率。
調査の方法 日本語表現の間違いを解説する書籍10冊をもとに「間違いやすい慣用表現」と「読み間違えの多い表現」で最頻出のものを20ずつ選び、二者択一の問題を作成。7月中旬にインターネット調査会社のマイボイスコム(東京・千代田)を通じ、20~60代の男女に解いてもらい、正答率の低い順にランキングした。有効回答人数は1000(各世代とも男女同数)。参考書籍は以下の通り。
「学び直しの日本語」(佐藤亮一監修)、「日本人が『9割間違える』日本語」(本郷陽二著)、「勘違いの日本語、伝わらない日本語」(北原保雄著)、「NHK間違いやすい日本語ハンドブック」(NHKアナウンス室編)、「日本語の正しい表記と用語の辞典」(講談社校閲局編)、「『知らなかった』では恥をかく!間違いだらけの日本語」(一校舎国語研究会編)、「日本人も悩む日本語 ことばの誤用はなぜ生まれるのか?」(加藤重広著)、「できる大人の日本語大全」(話題の達人倶楽部編)、「勘違いことばの辞典」(西谷裕子編)、「知っているようでホントは知らない!間違いだらけの日本語」(武久堅監修)
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